特許を持つ側が弁解できず,敗訴に

 実は,特許侵害訴訟で裁判所が特許を無効と判断した事例は,凸版と大日本の訴訟だけではない。この数年,日本では同様の判決が増えている(表1)。

表1 知財高裁が特許侵害訴訟で特許を無効と判断した主な判決例
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 キッカケは,富士通と米Texas Instruments,Inc.が争った,いわゆる「キルビー特許訴訟」で,最高裁判所が2000年に下した判決だ。特許庁だけに委ねられていた特許無効の判断を,裁判所が独自に下せることを示した。その後,2004年に判決を条文化する形で特許法が改正された。

 特許無効の判断で原告が敗訴する例が増えたのは,この時期からだ。特許庁の審判部長を務めた経験のある明治大学 法科大学院 教授の高倉成男氏によれば,特許侵害訴訟で原告が敗訴した裁判のうち,特許無効が理由だった割合は,2000年に1割程度にすぎなかった。2004年の特許法改正前後に,この割合は3~4割に上昇し,2006年には6割を超える水準に跳ね上がった(図11)。2008年以降は減少傾向にあるものの,高水準であることは間違いないようだ。

参考文献
1) 高倉,「イノベーションの観点から最近の特許権侵害訴訟の動向について考える」,経済産業研究所

図1 裁判所で特許が無効になる
日本の地方裁判所で判決があった特許侵害訴訟で,被告側が特許を無効と主張(抗弁)した割合は2007年に80%と,2000年に比べ大幅に増えた(a)。権利者が敗訴した判決のうち特許無効を理由にした割合も,2007年に63%と高まった(b)。特許庁や裁判所の統計を基に高倉成男氏が調査した。グラフ作成は日経エレクトロニクス。(a,b)の2000年は4~12月のデータ。

 背景には,関連する過去の技術資料を格段に調査しやすくなったことがある。インターネットの検索サービスの普及や特許検索ツールの充実で,特許出願前に公にされた先行技術の資料を掘り出すことが容易になった。

 裁判所での審理は,特許庁での無効審判の審査に比べ,一発勝負の側面が強い。被告側が法廷に隠し玉として用意してきた技術資料に原告側が弁解できず,敗訴につながる例が多いというのが法律関係者の一般的な見解だ。