異議申し立ては「両刃の剣」

 一方で、選択肢が増えた異議申し立て制度の活用は、「両刃の剣」との見方が多い(表1)。相手を攻撃できる制度は、逆に自分が攻撃される可能性を秘めているからである。富士通の中村氏は「企業での運用については、慎重に考える必要がある。下手な攻め方をして特許が有効と判断されると、次の訴訟では不利に働くかもしれない」と指摘する。

表1 米特許法で新設された主な権利確認の手続き
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 その理由の一つは、異議を申し立てる際の匿名が認められず、申立人は名乗り出る必要があること。例えば、異議申し立てで他社の特許を攻撃した場合、その特許を無効にすることに失敗すると、それが基で逆に相手側の企業に特許侵害で訴えられる可能性がある。異議申し立てによって、その特許が自社にとって重要と宣言することにつながるからだ。「特に登録後レビューでは、異議の理由をもれなく主張することが大切。その際に主張しなかったことは、後の訴訟でも主張できない恐れがある」(伊東国際特許事務所の伊東氏)という。

 もちろん、すべての観点で不安が残るというわけでもなさそうだ。「特許の有効性を争っている段階では、相手の名前が既に分かっているケースが多い。匿名性がないことも、それほど従来と変わらないのではないか」と、NECの大石氏は話す。

 今回の法改正は、不安材料以上に大手企業にとってはメリットが大きい。不安材料についても、今後提示される新法の運用規則の内容で払拭される可能性もある。

 だが、米国は判例主義の国だ。すべてを法律やルールの文言で定めることはできず、運用規則が完成しても曖昧な部分は残り続けることになる。このため、今後数年は新法の適用範囲を議論し、確認する過程で訴訟が増えるとの意見は根強い。その判例の積み重ねが、最終的な制度運用を形作ることになりそうだ。

 その点でも、新しい特許法を注視しておかなければ、技術者が生み出した発明が失われてしまうという結果になりかねない。「異議申し立て制度の活用が盛んになると、USPTOでの手続きで発明者が証言を求められるケースが増えるかもしれない」(ソニーの守屋氏)と指摘する声もある。発明を生み出す現場の技術者にとって、改正の影響は少なくない。

 新たな応用分野の台頭で高騰する特許の価値、デジタル技術の標準化、中国をはじめとする新たな知財大国の勃興など、特許を巡る世界的な動向はさまざまな要素が絡み合う複雑なものになった。米国の新法は、それを象徴する一つの大きな動きと認識する必要があるだろう。