“米国流”先願主義の始まり

 市場が急拡大するスマートフォン関連分野での特許拡充や、トロール対策のために、大手企業が特許を巨額で購入する動きも活発である。

図1 ソフトウエアやインターネット業界が特許に注力
Microsoft社は2010年に3094件の米国特許を取得し、同国での特許取得ランキングで3位に入った。取得件数は2006年比で2倍以上。特許侵害訴訟で被告になるケースが多発していることが、出願を増やす大きな理由のようだ。データは米Fairview Research社の資料から。
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 2011年6月にApple社やMicrosoft社、ソニーなどの企業連合が、経営再建中のカナダNortel Networks社の特許群を約45億米ドルで落札した例は記憶に新しい。この競売には、インターネット最大手の米Google社も対抗馬として入札していた。エレクトロニクス技術の新しい応用の広がりが、ソフトウエアやインターネット分野での特許の重要度を大きく変えているわけだ(図1)。

 こうした米国特許を巡る懸念を払拭すると期待を集めるのが、今回の法改正による先願主義への転換や、異議申し立て制度の拡充といった一連の制度改革である。特に大手メーカーの間では、制度改革の骨格に賛同する声がほとんどだ。特に先願主義については、「従来も自国の先願主義を前提に特許を出願してきたので、特許取得の戦略変更はほとんどない」(NECの大石氏)との見方が多い。

 だが、法律を運用する詳細なルールについては、これから順次決まるものが多いため、現状では知財戦略の不安材料を指摘する見方もある。新法に書かれた文言だけでは曖昧な点が少なくないからだ。

図2 個人発明家への配慮を残した先願主義
新しい米特許法では、新規性を判断する基準を発明日から出願日に変更した。同じ技術を先に発明しても、出願が遅ければ特許にはならない(a)。ただ、出願前に発明内容を公開しても、その後1年間はグレース・ピリオドという猶予期間が与えられる(b)。
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 例えば、先願主義への移行については、旧法にもあった「グレース・ピリオド(grace period)」と呼ばれる、猶予期間が残った(図2)。出願前に発明内容を公開しても、その後1年間は発明の新規性を失わず、出願までに猶予を与えるという制度だ。

 「先願主義への移行に当たり、大学や個人発明家が必要性を訴えた結果、今回の新法でグレース・ピリオドが残った」と、米国をはじめとする国際特許実務に詳しい伊東国際特許事務所 所長で弁理士の伊東忠重氏は背景を説明する。「発明を自ら公知にしても、その後1年間は特許出願の準備期間として猶予が与えられる。これにより、その発明の市場価値が判断でき、資金や融資を集めてから、出願費用を捻出できる」(同氏)。