約60年ぶりの改正となった新しい米国特許法。2013年春から運用が本格化する。前回の記事「『真の発明者は誰?』、長き争いに終止符」で説明したように最も象徴的なのは、「先発明主義」から「先願主義」への大転換。他にも新制度は多い。いずれも、他の国々の特許制度と調和することを目指した制度変更だ。ただ、これらの変更点を詳細に見ると“米国流”の先願主義が見えてくる。

 先発明主義から先願主義ヘの移行と並ぶ、もう一つの大きな制度変更は、登録された特許の権利を確認する異議申し立て制度を多様化したことだ。特許登録後の特定期間に、その特許が無効であると米特許商標庁(USPTO)に申し出られる複数の制度を新設した。つまり、競合他社が取得した特許を無効化する手段が増えたのだ。

 従来も再審査の制度はあったが、費用や期間の面で使いにくいとの声が多かった。今回、選択肢が増えたことで「裁判になる前にUSPTOでケリをつけられるのはメリット」(NEC 知的財産開発推進部 部長の大石達也氏)。今後はUSPTOでの手続きで、特許を巡る係争の結論が短期間に出るケースは増えそうである。

 制度新設の背景には、米国で多発する特許訴訟がある。米国ではこの数年、連邦地方裁判所での特許訴訟が年間2700~2900件と高水準で推移している。これは1990年代の訴訟件数に比べ、5割前後も多い規模感だ。「この係争解決の負荷を司法(裁判所)から行政(USPTO)に移すことが、制度新設の大きな目的」(RYUKA国際特許事務所 外国技術部 ゼネラルマネージャの大庭健二氏)という。

権利の濫用を防ぐ

 多発する特許訴訟は、企業にとっても大きな負担になっている。特許訴訟では、弁護士費用などを含め1件当たり10億円単位の費用が掛かるといわれる。地裁からCAFCまで判決が長引けば、4~6年ほどと長い訴訟期間を覚悟する必要がある。「米国の知財訴訟は不確定要素が多く、損害賠償額も破格」と、米国知財に詳しいFinnegan,Henderson,Farabow,Garrett & Dunner東京事務所 弁護士の吉田直樹氏は指摘する。

 米Apple社と韓国Samsung Electronics社の間で争われ、注目を集めているスマートフォン関連の訴訟のように大手企業同士が特許について争う例はもとより、製品化せずに特許だけを保有する企業による大手企業を狙った訴訟提起も増えている。

 この中には、いわゆる「パテント・トロール」と呼ばれる企業群による訴訟が多く含まれる。「正当な権利の主張以上に、権利を濫用するケースも多い。特にエレクトロニクス関連業界は、権利濫用のケースに困っていた」(吉田氏)という実情がある。すべてが濫用ではないとしても、大手企業から巨額の和解金を引き出すための“投資対象”と特許を捉える活動が多いことは確かだ。