約60年ぶりに改正した新しい米国特許法は、2013年春から運用が本格化する。最も象徴的なのは、「先発明主義」から「先願主義」への大転換で、長年繰り広げられてきた“真の発明者”を巡る争いに終止符が打たれたことだ。ただ、米国の特許制度は今後しばらく不安定な状態が続くとの見方も根強い。新たな特許法は、何をもたらすのか。

 2011年10月下旬。米連邦巡回控訴裁判所(CAFC:Court of Appeals for the Federal Circuit)の最高判事をはじめとする6人の裁判官が、米国の知的財産権関連の要人らと来日した。CAFCは、日本の知的財産高等裁判所(知財高裁)のモデルになった司法機関。特許訴訟を主に裁く米国の裁判官が大挙して日本を訪れるのは、極めて異例の出来事だ。

図1 2011年9月にObama大統領が署名
「リーヒ・スミス米国発明法案」に署名するObama大統領。(写真:Official White House Photo by Lawrence Jackson)

 来日の理由は、日米の知財裁判についての動向を両国で共有する目的で開かれた会議への参加である。前代未聞の来日が実現した背景には、2011年9月16日に米大統領のBarack Obama氏が署名し、成立した「リーヒ・スミス米国発明法案」(Leahy-Smith America Invents Act)の周知がある(図1)。米国では1952年以来、実に約60年ぶりの大規模な特許法改正だ。成立から1年半後の2013年3月までの間に、さまざまな新制度が順次施行される。

「先願主義」に移行へ

 今回の法改正は、かなり大幅な制度変更を含む。それ故に、今後数年は米国の特許制度の動向に大きな注目が集まりそうだ。その運用いかんでは、エレクトロニクス・メーカーをはじめとする製造業に特許戦略の再考を迫る可能性を秘めているからである。会議が開かれた東京都内のホテルには、新法が定めた制度について語る米法曹界の肉声を聴こうと、特許関連の実務に携わる日本の法律関係者やメーカーの法務担当者などが多く集まった。

 新特許法による制度改正の大きな骨子は二つある(図2)。

図2 新しい米特許法、目玉の制度は二つ
新しい米特許法の目玉は、「先願主義への移行」と「特許の権利確認手続きの多様化」だ。世界基準との調和を目指した利点が多い一方で、約60年ぶりの大きな制度変更のため、懸念を語る声も聞こえてくる。
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