優れた経営者はバランス感覚に長けている

―――経営者も数学的な視点を持っているほうが良いのでしょうか。

西成:私は最近、大企業の経営者と話すことが多いのですが、皆さん、数学者に近い感覚を持っていると感じています。数学で言えば、多目的最適化という分野なのですが、経営者の中には、自分なりの指標をいくつか持っていて、それらの指標をどうやって最適化、最大化すればよいかを考えている。その指標には、株価とか売り上げとか数値で表せるものも含んでいるだろうし、一方では従業員の満足度とか安全性とかコンプライアンスとか数値で表せないものも含んでいる。

 音楽でミキシングをするじゃないですか。ミキシング・コンソールのさまざまなスイッチを調整して、こっちを上げてこっちを下げて、それで最も良い点を探す。トータルなバランスを見ながら最適な解を探している。そういった点は微分積分などを繰り返しながら、最も変化点が少ないところを探すといった、我々数学者の研究と似ているところがあります。

 ただ、経営者は従業員や従業員の家族が自分の肩に乗った状態で判断している。そういった経営者がどう判断しているのかを話してもらうのは非常に面白いし勉強になります。歴史物の本を読んでいるように面白い。最近、そういった判断が数学で解けないか、考えているんですけどね。

―――そういったバランス感覚は、どうやったら養えますか。

西成:凄くシンプルに考えれば、やじろべえやシーソーと同じです。ただ、片側に載っているものが時代の流れによって常に変化する。それを見て、というかどのように変化するかを予測しながら、もう片方に載せるものを調整する。これがうまくできるのが優れた経営者です。

 そして、うまくできるようになるには、やはり試行錯誤を重ねて自分なりの論理を築くしかない。最終的に結論に至るその過程には、何度も分岐点があって、その都度自分で判断をしてきたはず。将棋の一手一手のように。良くない結果になっていたとしたら、どこかで間違ったはずだし、それは自分で分かっているはず。それを繰り返せば、自分なりの論理ができて、次からの武器になります。だから、ここでも試行錯誤がカギとなり、試行錯誤を重ねられることが優れた経営者になるためには必要です。

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