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―――実際の製品開発では、数学を利用してどのように問題を解決したのでしょう。

西成:例えば、コードの問題を考えましょうか。コードが暴れて困る。掃除機のコードをなるべくすんなりとしまいたいとか。では、ここでコードを抽象化しましょう。コードの太さを考えてしまうと工学になってしまう。ただ太さを考えないとすれば、コードは1本の線になる。そうしてしまえば、数学において「幾何」という強力な武器が使えるようになる。ベルトの問題も同様。歯車を回転させるベルトは、振動が常に問題になる。これもベルトを線と考えることで、数学で解けるようになる。このようにして、実際に製品開発に生かしました。

 次に膜を考えてみましょう。膜の問題も製品開発には非常に重要。例えばプリンターでは紙送りを安定させることが品質向上のカギを握りますが、紙を膜と考えて、その膜をなるべく暴れないようにすればいい。では、どうするのか。膜を真横から見てください。線になりますよね。次に上から見て、膜をスライスしていく。そうすれば、膜は線の集合体になります。数学が使えるようになる。

 数学では、このようにして近似化するというか、いい意味でさぼることが必要になってきます。本質は失わないようにして、余計なものはばさっとそぎ落とす。こうすることで、きれいに数学がはまっていく。

 ただし、何をさぼったかは、明記しなくてはならない。計算の前に、例えばコードのケースで言えば、「コードを線にしました」といったように仮定を明記する。いくつかの仮定のもとで計算した結果がこうでした、と証明するわけです。もし結果に納得がいかなければ、どこかの仮定を変更すればよい。これが試行錯誤にもなるわけです。