例えば、私が得意とする渋滞を取り上げましょう。渋滞はだれでも知っています。では、渋滞を定義してください、というと誰もできない。ビデオを見て、多くの車が道路にあふれていれば渋滞だと言える。逆に2、3台しか車が走っていなくて、すいすい流れていれば渋滞じゃないと言える。でも、ある車だけに着目し、その車だけを見せても、誰も渋滞かどうかを判断できない。これでは渋滞の問題は解決できないのです。

 私は、渋滞の定義だけで1年かけました。「流量を密度で微分して微分係数が負ならば渋滞」と定義したんです。こういった定義をなくして、道路を作ろうとしたって渋滞は解決できないのです。さらに、本質をこのように抽象的に捉えてしまえれば、車の渋滞はもちろん、人の渋滞も、ありんこの渋滞も何でも解決できます。私は、バブル崩壊が実は金融商品の渋滞だったという論文も書いています。

―――製造業で言えば自分達のコアビジネスの定義から始めるのもいいかもしれません。

西成:そうですね。例えば、エレクトロニクスメーカーでは“脱テレビ依存”と言われているかもしれませんが、敢えて「テレビとは何か」、ここを定義してみてもいいかもしれない。凄く抽象的にテレビが定義できてしまえば、「それさえ満たせばテレビなんだ」といったように、まったく新しいテレビができてくるかもしれない。また、テレビの定義を考えているうちに何か違った発想も出てくるはずです。

 もちろん辞書なんかを引いては意味がないですよ。自分達で徹底的に考えて定義するのです。そこで定義できれば、会社の背骨になる。また、抽象的に広く定義できるほど、いろいろなシーンで使えるのです。