リーマンショック以降の超円高や東日本大震災、タイの大洪水、尖閣諸島を巡る中国との摩擦など、日系自動車メーカーは逆風に晒され続けてきたが、アベノミクスによる円安効果もあり、徐々に反抗体制を整えつつある。

 「日経ビジネス」「日経Automotive Technology」「日経エレクトロニクス」の3誌は、円安の追い風を受け始めた日系自動車メーカーの今後の戦略を「新興国攻略」と「規制対応」という2大テーマに焦点を当て、書籍「徹底予測 次世代自動車2013」にまとめた(書籍の詳細はこちら、雑誌読者の方はこちらから割引価格で購入可能、出版記念セミナーの詳細はこちら)。

 このコラムでは、円安の追い風を受ける日系自動車メーカーの戦略や世界の自動車産業で起きている技術革新、規制動向などを見ていく。1回目は自動運転について。

 センサーと情報処理技術の進化を背景に、自動運転車の開発競争が始まった。実現すれば、自動車の最大の課題である交通事故を大きく減らせる。ただ、自動車メーカーにとっての未来はバラ色とは言い切れない。台頭するグーグルを前に逡巡する自動車メーカーの本音とは。

 自動運転車の開発を進めたいのに躊躇している──。

 2013年1月に米国ラスベガスで開催された世界最大のエレクトロニクス関連の展示会「International CES 2013(CES)」。トヨタ自動車による無人での自動運転を実現する実験車の発表では、同社が苦悩する姿が浮き彫りになった。

 発表の場で新しい技術の利点をじっくり説明するわけでもなく、持ち時間の45分のうちわずか10分強で説明を切り上げた。その上、無人で走れる実力がある実験車を披露したにも関わらず、「自動運転を目指した車両ではない」(トヨタ)とちぐはぐだ。

 外観は無骨だが、技術的には高い水準に達する車両である(図1)。自信を持ってアピールするのにふさわしいものだ。トヨタの態度が煮え切らないのはなぜなのか。

図1:トヨタが開発中の自動運転車 Lexusブランドのハイブリッド車「LS600hL」がベース。レーダーやカメラなどのセンサーがむき出しで、実験車と一目で分かる外観である。
図1:トヨタが開発中の自動運転車
Lexusブランドのハイブリッド車「LS600hL」がベース。レーダやカメラなどのセンサがむき出しで、実験車と一目で分かる外観である。

 背景には自動運転車が、自動車メーカーにとって諸刃の剣と言える危険性をはらんでいることがある。「究極の安全技術」(トヨタ)として最大の課題である交通事故を大幅に減らし得る一方で、実現するとこれまでの自動車ビジネスが根底から覆る可能性がある。

 そんな危機感をあおるのが米グーグルだ。自動車開発とは無縁に思えるソフトウエア開発企業の同社が、世界で始まった自動運転技術の開発競争で先頭を走っている。