さて、ここでもう一度、上司や周囲の人たちが、なぜ正しいという信念の下でイノベーション(創造)を阻害するのかを考えてみよう。その最大の理由は、オペレーション(執行)の価値観で、イノベーションを評価するからである。1年から数年の期間限定で100%の成功を求められるオペレーションの視点からは、10年以上かけて9割が失敗するイノベーションのプロジェクトは欠陥だらけに見えるのだ(表)。

表●オペレーションとイノベーションの違い
表●オペレーションとイノベーションの違い

 加えて、オペレーションは論理と分析に基づいてプロジェクトを進めているので、これまでの取り組み内容や成果、今後の展開・見通しを理路整然と説明できる。このため、熱意や想いを推進力とするイノベーションのプロジェクトは、いいかげんに見えてしまう。最後までイノベーションの本質を理解できないのだ。

 さらに、こうした流れをダメ押しする要因がある。表に示したように、企業活動の95%をオペレーション業務が占めていることだ。これは、裏を返せば、オペレーション業務で成果を上げて役員になった人が大多数を占めていることを意味する。オペレーションでの成功体験に照らすと、イノベーションの非効率さばかりが目に付くのだ。

 しかも多くの場合、イノベーションの現場の担い手たちは変わり者だ。イノベーションは、正規分布の中央部ではなく、端部から生まれるからである(図1)。ほとんど注目されていない領域からユニークな価値を発掘することがイノベーションである。だから必然的に、担当者はユニークな人、日本語にすれば変わり者、が多くなる。一方のオペレーションは、端部を刈り込み、中央部を引き上げるのが基本的な考え方である。ここでもイノベーションとオペレーションは水と油の関係だ。結局、多数を占めるオペレーション派が主導権を取ってイノベーションを阻害し、死に至らしめることになる。

図1●イノベーションは端部から生まれる
図1●イノベーションは端部から生まれる