固定電極に穴を開けて感度を向上

図3●音孔の大きさと密度で特性を最適化<br>固定電極側に多数の穴を開けることで,感度が改善する。ドイツInfineon Technologies AGのデータ。
図3●音孔の大きさと密度で特性を最適化
固定電極側に多数の穴を開けることで,感度が改善する。ドイツInfineon Technologies AGのデータ。
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 センサー部の第2の工夫は,固定電極への穴開けである(図3)。ここに穴を開けると,可動電極が音圧に押されて動いた際に,固定電極との間の空気が圧迫されて空気圧が高まることがない。可動電極が音圧に忠実に動きにくくなってしまうことを防ぐことができる。可動電極が動きにくくなると,感度が劣化する。そこで,固定電極に穴を開けることによって,固定電極と可変電極との間にある空気を外部に逃がした。特に高周波における感度低下を抑制できた。

 穴の最適な開け方についての検証は済ませている。穴の直径と密度を変えて感度を調べたところ,最適な特性を得られる条件が分かった。

 なお固定電極は,可動電極と同じ多結晶Siで形成している。ただし,音圧の影響を受けないしっかりとした構造にする必要があるため,厚さは2μmと厚くしている。

スティッキング対策も実施

 センサー部の第3の工夫は,信頼性向上のための構造である。MEMSデバイスでしばしば生じるスティッキング現象を抑えて,製造時と製品出荷時のデバイスの信頼性を高めた。しかも,マイクを搭載した機器の信頼性も高めている。スティッキングとは,二つの微小な構造体が一度接触すると離れなくなる現象である。接触部に液体があるときに,表面張力(メニスカス力)によって生じる。

 スティッキングは,製造時ではウエット・エッチングの際に生じる。ウエット・エッチングは,固定電極と可動電極との間のギャップを設ける際に使う。この製造プロセスでは,固定電極を形成した後に犠牲層と呼ぶ膜を載せて,その上に可動電極を形成する。犠牲層は,この後のエッチング工程で除去する。この際に,エッチング液を使い,洗浄後の乾燥工程でメニスカス力がスティッキングを引き起こす。

図4●スティッキング対策で信頼性を改善<br>構造体同士がくっ付いて離れなくなるスティッキング現象を抑えるため,接触部の面積を減らす突 起を設けた。ドイツInfineon Technologies AGのデータ。
図4●スティッキング対策で信頼性を改善
構造体同士がくっ付いて離れなくなるスティッキング現象を抑えるため,接触部の面積を減らす突 起を設けた。ドイツInfineon Technologies AGのデータ。
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 そこで,われわれはスティッキングを抑制するために,固定電極の可動電極と向かい合う側の表面に微小な突起を多数設けた(図4)。この突起によって,両電極が触れた際の接触面積が小さくなり,メニスカス力を大幅に低下させることが可能になる。実験によると,スティッキングの生じる確率を1/1万~1/1000に抑制できる。

 なおスティッキングは,製造時に生じなくても出荷後に生じる恐れがある。湿度の上昇や温度変化によって構造体が結露する可能性があるからである。さらに重要な点として,スティッキングは、例えば大音響の入力時など過度な音圧で生じることもある。これらについて,さまざまなストレス・テストを通じてスティッキング対策の効果を実証済みである。

注)技術セミナー「MEMS International」で,Marc Fueldner 氏が2008年5月に行った講演を基に,加筆,編集した内容である。