3次元CADやPDMなどの設計開発システムの導入時に期間短縮を目指すことは「常識」であり、実際に目標を達成した企業は多い。にもかかわらず、それで本当によかったのかという反省が生まれ始めている。

削ってしまった未来

 かつて、セイコーエプソンで設計3次元化などを主導した坂井佐千穂氏(住商情報システム製造ソリューション事業部PLMソリューション・ものづくりITアドバイザー)は「日本企業は大きく効率を上げてきたはずなのに、リーマンショックで業績を大きく悪化させた」と指摘する。海外と比べて景気回復のテンポも遅い中で、「どう頑張るかといえば、さらに効率を上げるしかなくなってしまっている。効率を上げることは重要だが、それだけでは疲弊するばかりだ」。

 ものづくりITで効率を上げることは、ある程度実現できた。問題は、そこで得た余裕を、さらなる効率化に投入してしまったこと。「ムダと称して、(本来ムダではなかったはずの)5年先10年先の未来を削ってきたのではないか」(同氏)。その結果、非創造的な仕事ばかりが増えて、技術者がアイデアを出す余裕を失ってしまった。

 韓国Samsung Electronics社常務として同社の設計システム改革を指揮した、東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員の吉川良三氏は、もっと直接的な表現で指摘する。「3次元CADの活用法として設計リードタイムの半減を目指すというのは、根本的に間違っているのではないか」。日本企業は製品の基本原理についてのイノベーションによって価値を生み出し、海外企業と競争すべきであり、コストと納期だけで勝負していても韓国や中国に勝てないという。

 従って、3次元CADをはじめとするITの利用法も、単にコストと納期を削減するというだけでは、競争力にはつながらないことになる。