前回紹介したように、設計者ばかりに負荷が集中するという状態を改めるには、生産技術や購買の担当者が専門家として、なるべく早期から参画するしかない。しかし、従来は「どうせ(設計)データは変わるから、後工程側で工程表などを早く作っても後から修正しなければならないため、ムダな作業になる」という意識があり、なかなかそれができていなかった。

何がフロントローディングの目的か

 ここで重要なのは、「データが確定してから作業しないとムダになる」と考えるのではなく、「間違ったデータができないように最初から参加する」という意識の変化だ。こうすればデータの誤り修正が減り、ムダになる作業も減らせる。完全にはデータの修正はなくならないかもしれないが、一度全体を把握しておけば、修正時の反応は早くなるはず。このような体制を確立するためには生産技術や購買など後工程の担当者だけではなく、設計技術者も含めた企業全体としての考え方を変える必要があると思われる。

 フロントローディングに対する目的意識も変わってきている。1990年代にいわれていたフロントローディングは、まず物理的な試作で検討する代わりにデジタルデータで検証することによって、試作にかかる時間とコストを削減しようというのが直接の目的だった。しかし、3次元設計が普及して試作の削減が常識となりつつある現在では、手戻りをなくすことに目的が移りつつある。さらに、なるべく初期の段階から設計の完成度を上げて、製品の品質を確保することも重要。このためには、さまざまな担当者の知識や知恵を一度に投入する方が有利になる。

データの成長とともに検討

 そこで再び立ち戻ってくるのが、データが先か検討が先かという問題だ。最初から誤りのないデータを作るのが理想だが、精度の高い検討のためにはデータが詳しくそろっているほど好ましい、という二律背反が存在する。この折り合いをつけるには、データがどこまでそろったら何の検討を実施するかという、データの成長段階と検討項目の関係を整理しておく必要がある。

 この整理にはさまざまな条件を考慮する必要があり、その条件は企業によって変わる。何でも早く検討すればよいと考えると、せっかくのフロントローディングが「見切り発車」と変わらなくなってしまう。「そう言われると、確かに以前は、どう考えても早すぎる『フロントローディング』を実施していた海外サプライヤーを見掛けた」と、元自動車メーカーの技術者で改革プロジェクトの責任者を務めた人物も明かす。