Phase-2に移行して格段に薄型化を果たし,動作も安定してきた。だが,入力を大きくすると,依然として各パーツ間の共鳴やボイス・コイルの上下動が起こる。これは,音質および製品寿命にもかかわるため,何としても取り除く必要があった。そこで,CAEによるシミュレーションを積極的に導入し,各パーツの最適条件を探ることにした(図1)。今までのスピーカーとは異なり,長年蓄積したデータがないため,信頼性の検証には膨大な手間が掛かることとなった。

図A\-4 CAE解析<br>結果の一例HVT方式はリンクを持つやや複雑な機構のため,機械系の共振が発生する可能性があった。通常のダイナミック型スピーカーよりも系が複雑なので,カット・アンド・トライの繰り返しでは,なかなか良い条件にたどり着くことができない。まずはCAEを使ったシミュレーション上にて,振動板やリンク機構,板状ボイス・コイル,ダンパーなど各部品の形状/質量/ヤング率/内部損失などの物性バランスを取り,その仕様で実機を試作した。実機の試験・測定結果との差異をシミュレーションにフィードバックし,再計算と試作・測定というプロセスを繰り返しながら,特性と信頼性を高めた。図は一例にすぎないが,さまざまな条件とさまざまな部位について繰り返し,シミュレーションを実施した(例えば,ユニットにねじれ応力が付加されたときや,部品の寸法が公差をオーバーしたときなど)。
図1 CAE解析
結果の一例HVT方式はリンクを持つやや複雑な機構のため,機械系の共振が発生する可能性があった。通常のダイナミック型スピーカーよりも系が複雑なので,カット・アンド・トライの繰り返しでは,なかなか良い条件にたどり着くことができない。まずはCAEを使ったシミュレーション上にて,振動板やリンク機構,板状ボイス・コイル,ダンパーなど各部品の形状/質量/ヤング率/内部損失などの物性バランスを取り,その仕様で実機を試作した。実機の試験・測定結果との差異をシミュレーションにフィードバックし,再計算と試作・測定というプロセスを繰り返しながら,特性と信頼性を高めた。図は一例にすぎないが,さまざまな条件とさまざまな部位について繰り返し,シミュレーションを実施した(例えば,ユニットにねじれ応力が付加されたときや,部品の寸法が公差をオーバーしたときなど)。
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 その一方で,このころになると比較的まともな音で音楽再生ができるようになってきたので,理解と協力を仰ぐため社内の関係者と部品サプライヤーを対象に,積極的に音出しのデモンストレーションを実施した。それにより,今まで懐疑的だった人々も徐々にHVT方式に賛同してくれるようになり,当社の管理部主導で開発プロジェクト・チームが編成され,設計者も10人にまで増員してもらえるようになった。関連部署が一丸となったことで,問題解決に向けた取り組みが加速した。

 そして2010年1月6日,ついに最初の量産が始まった。最初の製品は,車載用サテライト・スピーカーである。

小林 博之
東北パイオニア スピーカー事業部 第一生産部 開発技術部 音響開発課 課長