当事者が語る開発秘話:絵本にあったHVT方式のヒント

 HVT方式の開発に着手したのは,2006年である。パイオニアの企画部門より,「自動車の内装にピッタリと添うようなスピーカーはできないか」「外からはあまり見えず,車内ではそれなりの存在感があるサテライト・スピーカーが欲しい」というリクエストを受けたことがキッカケだった。

 そのリクエストに応えるべく,まずは既存の方式で薄型スピーカーを試作してみた。だが,音質的には満足できるレベルではなく,「ピッタリ」という取り付けでもなかった。「何か新しいことを考えないとまずい。『やります!』と既に約束してしまっている。商品計画プランにも組み込まれている」と悩んだ。開発着手当初は,暗中模索の状態だった。

 打開策を探るため,2006年12月に,東北パイオニアの啓発活動として隔月で開催している「社内試聴会」で「各種変わり種スピーカーを聴いてみよう」という企画を設けてみた。各社の製品サンプルを取り寄せて試聴会を催し,社員からアイデアを募ってみたのである。

 試聴会は盛況だった。アンケート用紙には「当社にもこれらのような独自技術が欲しい」「他社さんはいろいろ工夫していますね」などとのコメントが多く,新しい技術への評価は高かった。しかし,新しいアイデアにつながる良いヒントは見つからなかった。

 企画部門からのリクエストに,どう応えるか。そして,試聴会に参加して新技術を欲する声を寄せた社員へ,どう応えるか。悩みながらも新たな仕組みで「動くもの」「音が出るもの」に対し非常に敏感となっていた。

小林 博之
東北パイオニア スピーカー事業部 第一生産部 開発技術部 音響開発課 課長