次に,通常のスピーカーを背中合わせに配置した場合を考えてみる。音の広がりは双指向性(それぞれのスピーカーの正面方向)のパターンになり,横方向で は高域の音圧レベルが低い(図1(b))。加えて,正面や斜め方向の周波数特性が乱れてしまう,ということも起こる。これは,前後スピーカー・ユニット間 の距離が離れているため,それぞれから出た音が耳(もしくは測定マイク)に届くタイミングにズレが生じるからである。

 市場には,無指向性を標榜する,スピーカー・ユニットを多数個放射状に取り付けたものがある。この指向性を実際に測定したところ,高域での指向パターン が花弁状になっていることが分かった(図1(c))。各スピーカーの振動板間の距離差があるため,スピーカー2個の場合よりもパターンがさらに複雑になっ ているのである。これでは,聴取位置によって音色がコロコロと変化してしまう可能性がある。しかも,スピーカー・ユニットの多数個使い故,エンクロー ジャー内部の容積が不足し,低音再生が困難になっている。

 このように,従来のダイナミック型スピーカーを用いた手法では振動板間の距離差によって音波の到達タイミングがずれるため,「聴取位置によって音が変化してしまう」「間接音の周波数バランスが悪く,違和感がある」など,無指向性スピーカーの実現が困難であるといえる。

 なお,コンデンサ型やプリント・リボン型など,振動板の前後から音波を放射するタイプでは,前面と背面の音圧位相が反転しているため,横方向に音圧がな い8の字形の放射パターンとなる。後方からも音が放射されているので間接音成分は豊富だが,最適な聴取位置はシビアに限定され,スピーカーのセッティング も難しい。