ダブル・モータの場合,水平対向に配置されたボイス・コイルの不要振動は互いに相殺される。これは,振動板を駆動する際のボイス・コイルの振動方向は,常に一方のボイス・コイルの振動方向と逆方向かつ同じ駆動力になるためである。

 両面駆動の場合は,それぞれの振動板の往復運動によって起こる不要振動が相殺される。振動板は背中合わせに配置されるので,片側の振動板の振動方向は,常に一方の振動板の振動方向と逆方向かつ同じ振幅になるためである。

 従って,ダブル・モータおよび両面駆動の場合は,ボイス・コイルの振動は対向するボイス・コイルが,振動板から発せられる不要振動は対向する振動板が互いに打ち消し,ほとんど不要振動のないスピーカーとなる。

図7 ユニット方式による不要振動の違い:シングル・モータ駆動の場合<br>どちらのユニットもMDF製板厚5mmのバッフルに取り付けて,ユニットから100mm離れたバッフル面上の振動を測定した。この結果,HVT方式の方が低振動であることが分かった。
図3 ユニット方式による不要振動の違い:シングル・モータ駆動の場合
どちらのユニットもMDF製板厚5mmのバッフルに取り付けて,ユニットから100mm離れたバッフル面上の振動を測定した。この結果,HVT方式の方が低振動であることが分かった。
[画像のクリックで拡大表示]

 シングル・モータおよび片面駆動のHVT方式についても,通常のスピーカーに比べて不要振動を低減させる可能性がある。図3は同口径,同じ質量,同じ振動系質量(Mo)の通常スピーカーと比較したデータである。HVT方式の方が低振動であることが分かる。

 実は,スピーカー・ユニット単品の不要振動に目立った差はなかった。だが,HVT方式はボイス・コイルと振動板の振動方向が直交しているため,振動の合 成ベクトルは斜め方向になっており,これがスピーカーとしての不要振動の低さにつながる。バッフル板に取り付けた状態ではバッフル板をひねる方向の振動と なるので,バッフル板が十分な剛性を有すれば,その振動は比較的抑えやすいと考えられる。