スピーカー・ボックス厚は20mm

 スピーカー・ユニットだけが薄くなっても,スピーカー・ユニットを収めるエンクロージャー(ボックス)が大きいままでは意味がない。スピーカーの世界では,半ば常識として「十分な低音を再生するためには,大きいエンクロージャーが必要」といわれる。小さいエンクロージャーの場合,内部の空気ばねが硬くなることが低音再生におけるマイナス要因であるからだ。対処方法はある。以下の3点が重要なポイントになる。

1. スピーカー・ユニットそのもののばね性が柔らかいこと
2. 振動系質量(Mo)が大きいこと
3. Moを大きくするときには強力な駆動力(F)を備えること

 1と2は先に出てきたFoを決定付ける要素であり,HVT方式はその要件を十分満たしている。3の駆動力においても,ボイス・コイルの振幅方向に極端な制限がない場合,HVT方式は有利である。1~3の要件を満たすHVTユニットは,非常に小さいエンクロージャーにも対応が可能である。

 この特性を生かすことで,HVTユニットを使うと,エンクロージャーの厚さが20mmで容積が1Lに満たない薄型スピーカー・システムが可能となる。このようなスピーカー・システムは,薄型化が進んでいるテレビや,スペースに制約がある車載機器に最適ではないかと思われる。天井やダッシュボード,リアトレーなどの内装品に対してわずかな厚さで埋め込める。携帯機器では,より可搬性に優れた商品の企画も可能になる。