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 熱処理工程における生産性向上のシミュレーションを続けよう。VPMはD改善(能力の改善)を重視するが、C改善の方(効率の改善)が着手しやすいので、まずは正味作業時間以外のムダな時間を見つけて削減する。典型的な改善例を以下に示す。

[1]打ち合わせ時間の削減(予想効果10分=0.17h)
 炉に部材を投入する前に、従来からの慣習で20~30分の間、生産管理部門と品質保証部門が入念に打ち合わせをしているが、資料を事前に準備していないなどのムダが多い。事前に準備をした上で、打ち合わせ内容を厳選すれば時間を短縮できる。

[2]段取り、準備時間の短縮(予想効果5分=0.083h)
 炉に入れる部材のパレットなどが前日までに順番通り配列されておらず、当日の準備に若干時間を要していた。この準備を前日までに終える。

[3]作業途中での捜し物などの排除(予想効果5分=0.083h)
 通常の作業の途中で緊急指示された部材の探索や、現品表との照合、数量確認といった余計な作業が発生している。必要な作業を吟味して絞り込むとよい。

[4]作業動線と歩行距離の短縮(予想効果5分=0.083h)
 炉周辺の物品の整理・整頓が不十分で、必要な治工具が遠く離れた棚にあるなど作業性が悪い。作業導線を改善すれば歩行距離を減らせる。

[5]記録や転記の削減(予想効果5分=0.083h)
 工程記録の作業として、投入前のロット数量やロット番号などを現品表から転記し、炉から出した後には炉の温度や循環風量、その他の品質情報を記録する作業がある。これらの作業はバーコードなどを使えば簡略化できる。

 VPMでも、こうした効率面でのムダの削減をまず実施する。しかし、ここで頭に入れておかなければならないのは、効率指標が0.80と既に高く改善代が小さいことである。そのため、上記の効率改善を一生懸命行ったとしても、効果は0. 50h(30分)程度にとどまる。従って、これら[1]~[5]の改善が終了した時点での効率は4.00h/(5.00-0.50)h=0.89、すなわち約90%である(表)。

表●生産性シミュレーションの結果
表●生産性シミュレーションの結果
効率の改善成果は、実績値すなわち全体作業時間の減少として出てくる。一方、能力の改善成果は、正味作業時間の減少として表れる。