米Qualcomm社が無線通信技術の開発で合言葉にしている目標がある。「1000倍のデータ・トラフィックに備える」ことだ。2011年に世界のデータ・トラフィックは前年比で2倍に増えた。このペースで10年間トラフィックが増え続ければ、約1000倍になるとの仮定に基づくものである。

「1000x」キャンペーンを展開する
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 「1000倍のデータ・トラフィックを実現するためには、(1)移動通信方式の進化、(2)より広い周波数帯域の利用、(3)無線LANやスモールセルの活用、の三つを組み合わせる必要がある」(Qualcomm社 Senior Director, MarketingのPeter Carson氏)と考えて各種の研究開発や標準化活動を進めている。

 具体的には、周波数利用効率の向上だけではなく、移動通信および無線LANの複数の方式、カバー範囲の広さが異なる基地局、ライセンスが必要な周波数帯域とライセンスが不要な周波数帯域、などを複合的に組み合わせることが重要になるとQualcomm社は見ている(Qualcomm社の「1000x」キャンペーンのページ)。同社 Chairman of the Board and CEOのPaul Jacobs氏が2008年の『日経エレクトロニクス』誌のインタビューで、「ユーザーが使える実効速度を向上させるために、今後は“密度”の濃い基地局配置が重要になる」と発言していた通り、ユーザーに近いところに小さな基地局を置き、あらゆる周波数帯域や通信方式を使ってデータ・トラフィックをさばく方向に進みつつある。

 移動通信方式の進化という面では、Qualcomm社は他社に先駆けて新しい移動通信方式への対応を進めている。2012年11月にサンプル出荷を開始したベースバンド処理LSI「MDM9x25」は、LTEに対応するベースバンド処理LSIとして第3世代品に当たる。

 2013年に量産開始予定であり、「他社よりも2世代先行している」(同社 Senior Vice President and Chief Marketing OfficerのAnand Chandrasekher氏)と自信を見せる。このMDM9x25の回路を統合した次世代の「Snapdragon」プロセサを、2013年に発表する見込みだ(本連載の第2回参照)。