「経営計画の策定や決算報告を担当することになったが、これまで全く勉強したことがないので本当に困っている」(自動車部品メーカーの海外工場の製造責任者)。「経営上の数字として何を管理すべきか、どう見ればよいかが分からない。これまで資金計画すら見たことがなく、手探りで進めている状況だ」(家電部品メーカーの海外工場責任者)。

 海外拠点に赴任した技術者の多くが今、こうした悩みを抱えている。製造拠点の海外進出や移転が加速する中、日本国内で生産ラインや生産技術の面倒をみてきた技術者が突然、海外拠点の経営を任されるケースが増えているからだ(図1-1)。コスト競争力などの観点から、企業は限られた人材で海外拠点を運営しなければならない。そのため、技術者が製造だけでなく経営まで担うことが求められる時代になりつつある。

図1-1●技術者にも求められる経営知識
図1-1●技術者にも求められる経営知識
海外進出に伴って、技術者に技術面だけでなく工場の経営まで任せる企業が増えている。ところが、経営の基礎を知らない技術者が多い。

 ところが、そうした多くの“にわか経営者”である技術系経営者に対し、本社の経営者からはしばしば厳しい声が上がる。ある製造機器メーカーの社長は、「技術者として優秀な社員を海外工場に出向させたが、経営が全く分かっていなかった。日本からの指示もほとんど理解できない。事前に少しくらいは経営を勉強させておくべきだった」と嘆く。

 技術者だからという言い訳は通用しない。経営の基本を理解していなかったばかりに、海外拠点が経営危機に陥って全社問題に発展したケースもある。これからの技術者はいつ海外拠点の運営を任されるか分からない。その時に備えて、今から経営の基礎をきちんと理解しておいた方がよいのだ。