図1 中国人観光客は「買い物リスト」を重視する。同リストに書かれているものは、目薬やリップ・クリーム、化粧水といった日常品から、漫画、ブランド品のバッグ、デジタル・カメラなど多岐に渡る。
図1 中国人観光客は「買い物リスト」を重視する。同リストに書かれているものは、目薬やリップ・クリーム、化粧水といった日常品から、漫画、ブランド品のバッグ、デジタル・カメラなど多岐に渡る。
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図2 Aさんは、所望する漫画を購入するため、複数の本屋を訪れた。しかし、 見つからなかった。
図2 Aさんは、所望する漫画を購入するため、複数の本屋を訪れた。しかし、 見つからなかった。
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 調査対象者の1人であるAさん(女性)は、24歳の会社員である。小柄で眼鏡を掛けていて、とにかく明るくてテキパキしている。初めての海外旅行である上、日本語をほとんど話せないにもかかわらず、全く臆することなく臨機応変に行動していて、旅行を心から楽しんでいるのがよく分かった。

 そのAさんが電車の中や休憩のベンチなどでしきりにメモ帳を見ているので、何が書いてあるのかを見せてもらった。それは膨大な「買い物リスト」であった。自分用の買い物もあれば、親戚や友人に頼まれたお土産もある。買い物リストの内容は多岐にわたっており、目薬、リップ・クリーム、化粧水といった日常品もあれば、漫画、ブランド品のバッグ、デジタル・カメラ、そして叔父さんから頼まれたという釣竿まであった。

 全員の買い物リストを見せてもらって、中でも驚いたのは、それぞれの品について、こと細かく決められていることであった(図1)。例えばAさんであれば、小学生の従妹へのお土産のデジタル・カメラは、このメーカーのこのモデル、とまで指定されている。友人から頼まれた漫画も、「日本語の漫画であればなんでもいい」のではなく、「この著者のこの漫画の13巻」とまで指定されているのである。実際のショッピングにおいては、衝動買いをするよりも、買い物リスト上にあるものを買うことを優先する。つまり、中国人観光客に日本で日本の家電を買ってもらうためには、まずは日本に来る前の中国においてリストに載っている必要があるということである。

得られた二つの気付き


 この買い物リストは、今回調査した対象者すべてが持っていた。このリスト一つとっても、多くの「気付き」が得られた。本稿では代表的な二つを紹介する。第1に、日本での中国人の買い物はとても手間がかかる、ということだ。

 漫画を1冊買うにしても、本屋に入って「これでどうだろう」と適当に手にとって買うことはできない。実際に、Aさんは本屋さんに入って散々探したが「この著者のこの漫画の13巻」は見つからなかった(図2)。こういうこともあって、中国人観光客は全員ショッピングに多くの時間を使っていた。そのため、時間が足りなくなり、買い物リストにあるものをすべて買うことができた人は一人もいなかった。テキパキしているAさんであっても、限られた期間中に叔父さんから頼まれた釣竿を買いに行く時間はなかった。

 カップルで訪れていた富裕層の男性Cさんは天津で機器製造企業の社長をしており、北京でジャーナリストをしている彼女との初めての旅行で日本を訪れた。日本語が堪能な彼女が旅行をリードして、熱海の温泉から横浜のショッピング、ディズニーシーなどを楽しんだ。Cさんの彼女が楽しみにしていたのはやはりショッピング。詳細な買い物リストを手帳に書き込み、友人や知人の名前とともに、頼まれた商品と個数や購入条件などを移動中の電車の中で熱心に確認していた。

 だが、日本語に堪能なCさんの彼女ですら、時間が足りず、買い物リストにあるすべての商品を購入することはできなかった。これほどまでにショッピングが中国人観光客にとって日本旅行の重要な目的の一つになっているということを強く実感するとともに、買い物リスト内の商品をもれなく購入してもらうためのソリューションが、日本側には必要になる。

口コミを重視


 もうひとつの気付きは、クチコミを非常に重視しているという点だ。中国人観光客は、インターネットで徹底的に調べて、日本に来る前に買い物リストを作成する。中国人観光客が旅行や買い物で参考にする情報は、ガイドブックや政府などの公的機関、企業などが提供する情報ではない。

 それを示す好例が、Bさん(30代女性、教員)である。彼女は、夫と4歳の息子、そして勤め先の同僚と共に日本に来た、日本旅行リピーターである。Bさんは、「企業が出している情報は、きれいな言葉で書かれているので信用できない。信用できるのは一般の人のクチコミ」と明言した。もちろん、日本でもクチコミが信用されるのは間違いないが、その「公式情報を信用しない度合い」は、中国人観光客の方が圧倒的に強かった。つまり、中国人観光客の買い物リストに入るような商品を目指すならば、クチコミで高い評判を得る必要があるわけだ。

――続く――