図1 グループ・インタビューなど、既存の手法では潜在ニーズを見つけることは難しい。行動観察であれば、同ニーズを見つけやすい。
図1 グループ・インタビューなど、既存の手法では潜在ニーズを見つけることは難しい。行動観察であれば、同ニーズを見つけやすい。
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 我々が所属する大阪ガス行動観察研究所では、日本企業が中国市場に提供できる価値を知るために、日本に来る中国人観光客の旅行行程に同行する「行動観察」調査を2012年初頭に実施した。日本を旅行することによって、中国人観光客が得る経験を粘り強く観察することで、中国人観光客は日本の何に喜びを感じるのか、そして何を不満と思うのか、について膨大なインサイト(洞察)を得ることができた。本連載では、特に家電のショッピングに関連する内容を紹介する。

行動観察とは?


 中国人のニーズを知るために、アンケート調査やグループ・インタビューなど、直接顧客に語ってもらう形の調査も重要ではあるが、大阪ガス行動観察研究所では行動観察という手法を用いている。

 最初に、行動観察について簡単に解説したい。行動観察は、新しい仮説を得て、新たな枠組みでのソリューション(解決策)を提供することを目的にしている。

 行動観察は「観察」「分析」「ソリューション」の順で行う。まず、対象となる現場を観察し、事実や気づきを収集する。次に観察結果を分析し、仮説(構造的な解釈)を出す。フィールド(観察対象)の実態を解釈し、仮説を得るために、人間工学や心理学、民俗誌(エスノグラフィー)などの人間に関する知見を活用する。そして、解釈に基づいたソリューションを提供する。

 一般的なマーケティング調査では、調査対象者の数をできるだけ増やし、直接たずねることでユーザーのニーズを探る。ただし、本質的なニーズに基づいて、新しい価値を作るには限界がある。

 行動観察では、対象者の数は多くないが、半日から4日間という期間でなるべく深く調べることに注力する。我々の経験から言えば、フィールドで対象者をじっくりと観察・分析した方が、新しい仮説や潜在ニーズを得やすい。

 企業は、付加価値の高い製品やサービスを開発して競争に打ち勝たなくてはならない。そのために、「顧客は何を求めているか?」を知る必要がある。しかし、市場が成熟してニーズが多様化する中で、アンケートやインタビューで顧客の「困りごと」を把握し、その問題解決を図る従来の方法だけでは画期的な製品やサービスを提供することは難しい(図1)。顧客は自分の行動をすべて自分で把握しているわけではないし、自分のニーズを構造的に解釈できているわけでもないからだ。

 そこで、アンケートやインタビューで答えてくれる「顕在ニーズ」だけでなく、実際にお客さんの行動を観察して、まだ顧客自身も言語化できない「潜在ニーズ」にいち早く気付き、顧客に価値のある経験を提供することが重要となっている。

4組を調査


 今回実施した中国人観光客の行動観察調査は、旅行行程に観察者が常に同行し、その行動を観察するとともに、インタビューも行った。「密着取材を行った」、と説明した方が分かりやすいかもしれない。その概要は以下の通りである。

目的: 個人ツアー旅行者の視点から、旅行プロセスとその実態を把握する。例えば、旅行計画や旅行中の活動、日本滞在時の交通手段、宿泊、食事、ショッピング、および帰国後のクチコミなどである。
手法:現場同行観察(全工程同行2名、および最終日のみ同行2名の全4組)
インタビュー対象者 
Aさん: 20代中間層(初心者)の女性
Bさん: 30代中間層リピーター家族の女性
Cさん: 30代富裕層カップルの男性
Dさん: 20代中間層(リピーター)の女性
実施日: 2012年1月18日(水)~2月18日(日)
実施場所: 東京、関東近郊、大阪

――続く――