フィンランドにも波及

 部品を日本製に切り替えて試作すると,なんと部品コストを40~50%も低減できた。しかも,通話など品質面でも申し分なかった。この時に採用したのは,高周波フィルタやTCXOといったRF回路部品,コネクタ,小型2次電池などだった。

 具体的にはTDKや村田製作所,三菱電機,ヒロセ電機などが部品を提供したという。このほか,放熱部品なども日本の部品を利用した。当時は携帯電話機の内部にも,ヒートシンクが使われていたのである。

 内海やA&Aジャパンのスタッフが実現した部品コストは,Nokia社を驚嘆させる。メリットがはっきりしている以上,Nokia社の決断は早かった。

 「携帯電話機の構成部品を,なるべく日本で調達する」

 Nokia社は韓国のTMCで製造する携帯電話機だけではなく,フィンランド本国で生産する携帯電話機にも,積極的に日本の部品を採用する方針を打ち出した。部品コストを大幅に削減できる「日本」という地域をうまく使えば,高い収益性を確保できると踏んだのである。

 この時の経験が,Nokia社に「日本で部品を買うと安く作れる」という認識を強烈に植え付けることになる。Nokia社は当時,テレビやゴムといったさまざまな事業分野を抱えるコングロマリット経営から,移動通信事業に特化した会社へと大きく舵を切っているところだった。Nokia社の戦略変更の背景には,日本の優秀な部品があったのである。