取引先に助けを求める

 「そりゃ困ったなー。取りあえず皆,韓国に帰ってきてくれ」

 当てが外れた内海は,途方に暮れるしかなかった。Tandy社のバイヤー(購買担当者)とは既に,携帯電話機の納期を約束してしまっていた。1台1台手作業で作っていたのでは,予定の製造数を確保できない。

 そこで内海はまず,韓国国内で家電機器の自動化製造ラインを手掛ける企業に,片っ端から声を掛けた。韓国Hyundaiグループのある企業から,自動化 設備に精通した技術者を引き抜いたりもした。しかし,肝心の携帯電話機の自動化量産ラインに関する運営ノウハウが得られない。当時の韓国にはまだ,こうし た製造設備を保有する企業がなかったのである。

 困り果てた内海は,日本で世話になっている顧客や取引先に相談してみた。すると,内海が以前から懇意にしていたあるメーカーの事業部長が,系列の製造会 社で携帯電話機の生産に携わっているという話が耳に入ってきた。内海は早速, その事業部長─仮にM氏とする─と,会う約束を取り付けた。