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 Nd-Fe-B系焼結磁石におけるDyやTbの使用量を減らす取り組みの一方で、同磁石を代替するための材料の研究も進められている。その1つが、東北大学大学院工学研究科教授の高橋研氏らが手掛ける窒化鉄(Fe16N2)だ*7

 Fe16N2は飽和磁化が高く、最大エネルギ積が理論値で約1035kJ/m3(130MGOe)と、強力な磁石になるポテンシャルを持つ。問題は、保磁力に比例する異方性磁界が低いことだ(図10)。実際、Fe16N2の保磁力は理論値で796kA/m(10kOe)と低い。

図10●窒化鉄の飽和磁化と異方性磁界
図10●窒化鉄の飽和磁化と異方性磁界
東北大学の高橋氏の資料を基に本誌が作成。

 そこで高橋氏らが取り組んでいるのが、飽和磁化を多少落としてでも、Fe16N2の保磁力を高めるための研究だ。具体的には、Feの一部をレアメタルではない何らかの金属元素で、さらにNの一部をホウ素や酸素など何らかの非金属元素で置換する方策を探っている。

 元素の置換で保磁力向上が期待できるのは、異方性磁界が結晶構造と組成によって決まるためだ。すなわち、異方性磁界は、磁気がどの方向にどれだけ向きやすいかという磁気異方性エネルギに比例し、外部にどれだけの磁気モーメントを出せるかという飽和磁化に反比例する。前者は帯電子の流れる向きと距離、後者は帯電子の数によるため、結晶構造と組成がカギとなる。

 Fe16N2には、実は200℃で相分離してしまうという難点もある。そのため、ボンド磁石としてしか使えない可能性がある上、200℃の耐熱性を求められるHEVへの適用も難しい。ただ、最大エネルギ積が非常に高く、「風力発電用の発電機には適する」(高橋氏)。適材適所で磁石の種類を使い分けることで、レアメタルの使用量を削減していくことも重要だろう。

 一方、代替材料候補としてサマリウム・鉄・窒素(Sm-Fe-N)系材料を研究しているのが、前述の東北大学の杉本氏らのグループだ*7。Sm2Fe17NXは、保磁力がNd-Fe-B系材料の5倍程度と高い。だが、550℃以上で分解してしまうため、現状ではボンド磁石として使われるだけ。バインダが必要な分だけ磁粉の充填率が下がり、最大エネルギ積がNd-Fe-B系焼結磁石の半分以下と低い。このことから、杉本氏らはSm2Fe17NXの磁粉を高い密度で固める技術の開発を進めている。

*7 経産省の希少金属代替材料開発プロジェクト「Nd-Fe-B系磁石を代替する新規永久磁石及びイットリウム系複合材料の開発」の一環として研究開発を進めている。