保磁力分布に差をつける

 さらに、これらの磁石メーカーが進めているのが、粒界拡散法を減磁されやすい部分とそうでない部分に差をつけて適用するというアプローチだ。

 例えば、ロータの円筒面にカマボコ型の磁石を配置するSPM(SurfacePermanent Magnet)モータでは、磁石は、回転方向に対して後ろ側の端部ほど減磁しやすい(図4)。モータの回転時に、磁石の回転方向手前側がコイルに吸引されるのに対し、同後ろ側はコイルから反発力を受ける。このため、回転方向後ろ側に逆磁界がかかるのである。しかも、カマボコ形の磁石の場合、形状的な要因で端部ほど逆磁界によって減磁されやすくなっている。

図4●減磁しやすい端部ほど保磁力を高めた磁石の保磁力分布
信越化学工業の例。(a)のようなSPMモータでは、磁石は、回転方向後ろ側の端部が減磁しやすい。すなわち、パーミアンス係数が低い(b)。そこで、粒界に拡散させるDyの濃度が端部に行くほど高くなるようにして保磁力に差をつける(c)。そうすることによって、従来品よりも少ないDyの量で、端部を減磁しにくくすることが可能になる。既存の磁石と同磁石にこうした粒界拡散を適用した場合の減磁率を比較したのが、(d)である。画像:信越化学工業
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 従って同磁石では、減磁の少ない中央部に端部ほどの保磁力は要らない。結果、DyやTbの濃度を端部では高く、中央部では低くすることができる。

 実際、信越化学工業では、同磁石の両端から粒界拡散の処理を行うように工夫して、端部ほど保磁力が高くなる磁石を作製するなどの技術開発を進めている(図4)。TDKも「どの部分にどの程度の逆磁界が加わるのか(保磁力が必要になるのか)が、CAEでかなり分かるようになった」とし、Dy化合物のスラリーを磁石の全面ではなく部分的に塗布する技術を開発中だ。

 こうした、部分的に保磁力を変えるという考え方は「ここ数年で出てきた」(TDK)。実際、多くの家電メーカーや自動車メーカーが取り組み始めた模様。磁石メーカーとモータメーカーの協業がますます重要になってきている。