横田 そこで、いろいろな人たちに話を聞きましたが、特にアメリカで聞いた話が衝撃的でした。各州政府のお役人に片っ端から聞きまくったんです。Value Engineeringを向こうではValue Analysisと言ったりしますが、どういう目的で導入しているかと聞くと、コスト削減と回答した州政府は1/3で、残りの2/3は声をそろえて「合意形成だ」と答えました。通常は2年間かかるようなステークホルダーとの合意形成を、VEを使うと非常に短時間にできるから導入しているというような言い方をしたんです。

 私は、実際にValue Engineeringの効果をそういうふうに聞くのは初めてだったので、導入目的はコスト削減じゃないんだ、私の感覚は間違っていなかったと実感しました。なので、もっとうまくやればValue Engineeringの幅がどんどん広がるんじゃないかと強く思っています。実際、私は、いろいろな論文でも「コスト削減はある一側面」だと書いています。

新しい機能開発にこそ勝機

――ありがとうございます。佐藤さん、設計の面から、コスト削減じゃなくて、こんなことを考えたらどうかというのはありますか。

佐藤 私もいすゞ自動車にいるときに散々やってきましたので、コスト削減を否定しませんが、VEがもう一つ伸びない原因としてコスト削減に集中してしまっていることがあるのではないかと感じています。今年も昨年も一昨年も、VE活動優秀賞は大体原価低減をうまくやった会社が選ばれている。ここにちょっと閉塞感があるのではないかと思っているんです。

 確かに原価低減は企業にとって重要ですが、むしろ新しい機能開発をする。そこに新しい勝負の場があるんじゃないかと思います。そっちに振っていけば、日本はまだ生き延びていけます。しかし、コスト低減を進めて最終的に多くの企業が何をやっているかというと、日本脱出をしているんです。震災や電力事情もあり、海外に進出をして日本のものづくりが消えかかっている。我々はVEで、機能を伸ばしていくところに軸足を移していくことが必要なんじゃないかと思っているんです。

 例えば、私がこの間アメリカから持って帰ってきたペットボトルですが、これはワンタッチで蓋ができるものです。運転しながらも片手でキャップが取れます。アメリカへ行ってびっくりしました。一方、日本のものは右手にキャップを持ち、左手でボトルを持って開けるこれでは車を運転できません。こんなふうに、ちょっとの工夫が新しいVEをつくるんです。

 これは小さい事例ですが、機能向上についてもっと語り合える場があったら、企業の経営者がそれを高く評価をするようになったら、原価低減から脱出するVEができるのではないかと思います。