技術者の課題は「経験」

 本特集の取材で浮かび上がってきた日本の技術者が抱える課題は、「経験」だ。高度経済成長期に活躍した技術者が口々に話す成功の要因は、多くのことを自らの手で体験したという点で共通する。新技術や新製品の開発はもちろんのこと、実験や製造に使う装置の製作から客先を回る営業に至るまで、さまざまな経験を積むことが技術者の実力を向上させる糧となった。その経験を通じて「何を作るべきか」を考えることの重要性を学んだ。

 だが、製品が複雑になって技術や開発プロセスが細分化し、LSIなどのブラックボックス化が進んだ結果、開発現場の専門化が進み、技術者が多様な経験を積むことが難しくなった。

 冒頭に登場した久多良木健は「昔は、テレビを開発する際にチューナーも表示デバイスも一人で手掛けたから、全体像がよく分かった。今は、製品の仕様が分かっても『なぜテレビが映るのか』というような基本的なことを理解する機会がないのかもしれない。ソフトウエアも階層ごとに開発者が違っていて、システムとして捉えられなくなっているのではないか」と指摘する。