エレクトロニクス産業のさまざまな環境変化にどう対応すべきか。技術者に求められるのは、自ら道を切り開いていく強い意志だ。突然訪れた転機に、技術者はどう動いたのか。=文中敬称略

東京大学の宮田氏

 「正直に言えば、今でも新しいことに挑戦するのは怖い。企業とのプロジェクトは、その企業の業績に直結するので責任がある。でも、逃げないで挑戦し続けることが重要だ」。

 東京大学 大学院 教授の宮田秀明(63)は、自らの研究生活を振り返り、挑戦こそが技術開発を進展させる原動力だと語る。

 石川島播磨重工業(現IHI)で船舶の設計者として社会人生活を始めた宮田は、大学に転じてからも開発現場を大切にしてきた。実用化は難しいとの見方が強かった水中翼船や、世界最高峰のヨット・レース「America's Cup」に挑むヨットの開発を手掛けるなど、常にトップを走ってきた自負がある。その宮田が重視するのは、現場での「経験」だ。

 数値計算による波のシミュレーションから始まった研究テーマは、今では流通業界の物流を効率化するシステムや、電気自動車とLiイオン2次電池を使ったエネルギー・システムといった社会システムの構築にまで分野を広げた。すべての研究プロジェクトで宮田は常に現場にいた。

 「二つの異なる分野を経験すると、さらに高い視点で新たな分野の研究に取り組める」。これが宮田の持論だ。多様な経験が大切だと思うからこそ、あえて研究室の学生に権限を委譲し、現場を踏ませるようにする。企業との共同プロジェクトで真剣勝負のプレゼンなどを経験すると、その成功体験で学生たちはメキメキと自信を獲得していく。

異なる分野の経験が実力を高める