エレクトロニクス産業のさまざまな環境変化にどう対応すべきか。技術者に求められるのは、自ら道を切り開いていく強い意志だ。突然訪れた転機に、技術者はどう動いたのか。=文中敬称略

  2011年2月。新興国の研究者12人が日本の地を踏んだ。重さが50kg以下の超小型人工衛星の開発で基礎となる技術を学ぶ教育プログラム、 「CanSat Leader Training Program」に参加するためだ。この技術は、東京大学 教授の中須賀真一(50)らの研究グループが開発を進めている。

 衛星の構造設計や組み込みソフトウエア開発、電子回路といった技術の学習に使うために、日米が中心となって考案した空き缶大の組み込み機器「缶サット」。その開発手法を、母国で宇宙開発を志す学生などに伝えるのが、新興国研究者の訪日のミッションである。

技術者教育の有力な手段に

 グアテマラやナイジェリア、トルコ、ベトナムなど世界10カ国の研究者が、約1カ月の合宿生活で実際に缶サットを開発し、マニュアルなどの作成に挑ん だ。「欧米の技術を学んだ明治時代の日本人は、彼らと同じような思いで海を渡ったのだろう」と、今回のプログラムの関係者は参加者の想像以上の熱意に驚 く。この数年、日本メーカーが開拓に注力する新興国市場。そこには、高い実力を備えた優秀な研究者が、日本の技術力に熱い期待を抱いて待ち構えている。

 参加者が缶サットに興味を持つ理由は、宇宙開発の人材を自国で育てる有力な手段になる可能性があるからだ。数百億円規模の巨額投資が必要な従来の人工衛星を新興国で開発するのは、現状では至難の業。だが、数億円の水準で済む超小型衛星ならば、その可能性はグッと高まる。

 グアテマラから参加したWilly Cabanas(48)が語る同国の課題は切実だ。Cabanasは、宇宙航空技術に関する中米の非営利団体「Central American Association of Aeronutics and Space」のPresidentを務めた人物である。「グアテマラは、頭脳流出という大きな課題を抱えている。大学院で海外留学し、そのまま帰国しない 技術者や研究者が多い。缶サットのような教育プログラムがあれば、国内で学生が宇宙開発を短期間に学べる」と期待を寄せる。

 「母国の学生には、宇宙開発が欧米の白人だけのものではないと知ってほしい」。こう真剣な表情で訴えるのは、ナイジェリアにある国連関連の教育機関 「African Reginal Centre for Space Science and Technology Education」から参加したBabatunde Okaeye Salu(33)。「私が所属する機関には、人工衛星の開発プロセス全体を体験した研究者がいない。だから、学生に関連技術を教えようにも手段がなかっ た」。

 トルコの空軍士官学校「Turkish Air Force Academy」から参加したMansur Celebi(36)は、日本で得た気付きに興奮気味だ。「多分野に広がる衛星関連技術の統合で悩んでいたが、今回、缶サットの開発を体験して、決して難 しくないと分かった。ここで学んだことを、多くの大学に広めたいと思う」。