経験者が語る

海外転職は技術者のキャリアを高める

松枝洋二郎氏(49)
台湾AU Optronics(AUO)社(友達) Technology Unit Special Assistant

 2002年に、セイコーエプソンから韓国Samsung SDI社(現・Samsung Mobile Display社)に転職した。理由は大きく二つあった。一つが、セイコーエプソンで開発を手掛けていた有機ELの実用化が、同社では難しい状況になった こと。もう一つが、当時のSamsung SDI社のCEOから、「我が社の有機EL事業を成功に導くためには、あなたの力が必要だ」と熱烈なスカウトを受けたことだ。迷いはあったが、有機ELの 実用化という自らの夢を実現するために、海外企業への転職を決意した。

 日本では、私のように韓国や台湾企業に転職する技術者に対して「裏切り者」と見る雰囲気がある。Samsung SDI社を退職後、国内で再就職先を探していた時に、ある国内大手企業の人事部長から「Samsung社を辞めた技術者が日本で働くのは難しい」と言われ たこともあった。こうした日本の風潮には、声を大にして反論したい。欧米では多くの企業で実績を上げた人ほど実力があると評価されている。むしろ、一つの 会社で何十年も働き続けるのは珍しい。転職は自らのキャリアを高めるということを、理解してほしい。

 技術者にとって一番の理想は、世界のトップを走ること。歴史に名前が残るような仕事を成し遂げることが、技術者としての喜びにつながる。1社にとどまっ て開発を続けるよりも、複数の企業で経験を重ねた方が技術者としてのスキルは高まる。自らのキャリアパスを振り返った際に、客観的に見て技術者としての価 値を確実に高めてきたと示せることが理想だろう。

 転職時に気を付ける必要があるのが、退職した会社に対する守秘義務だ。退職時にサインする書類は企業によって異なるが、「今後、在職時に得た社外秘の営 業および技術情報を一切使用しない」というものが多い。私自身、守秘義務に関しては常に細心の注意を払ってきた。転職先で前職での技術について聞かれたこ とは何度もあるが、そのたびに「論文や特許といった公開情報以外は話せない」と断るようにしている。

 エレクトロニクスの技術開発の主戦場は、日本から韓国・台湾・中国にシフトしつつある。守秘義務さえ守れるのであれば、日本人技術者は外国企業に転職することに胸を張るべきだ。(談)