日本との違いに戸惑い

 中国で機器開発を手掛けるメーカーは多いため、赴任当初からEMI対策に苦しむ機器メーカーからの依頼が舞い込んだ。しかし、電波暗室棟の完成までは、 その依頼に十分に対応できない日々が続いた。飯田は、「日本なら5分で終わることなのに」と歯がゆい思いをすることもあった。

 日本メーカーと中国の地場メーカーの機器設計に対する考え方の違いにも、戸惑いを隠せなかった。日本メーカーは一から設計を手掛けていることが多く、EMI対策についての依頼があっても建設的な議論が進む。

 これに対して、中国の地場メーカーは半導体メーカーが作ったリファレンス設計をそのまま流用し、機能ごとに回路ブロックを組み合わせていることがしばし ばだ。このため、EMI対策も丸投げされることが多い。「こうした考え方の違いを理解するのに時間が必要だった」(飯田)。

 そんな戸惑いは、2010年7月に電波暗室棟が完成したことで消えていった注1)。機器メーカー各社の依頼に対して迅速に対応できるようになった上、中国の地場メーカーの技術者と直接話す機会が増えたことで、議論も活発になったからだ。

注1) 中国に建設された設備は、電波吸収体で下面を除く5面を覆った「電波半無響室」、6面すべてを覆った「電波無響室」、金属シールドを施した「シールド・ルーム」の3室。村田製作所が国内に持つ電波暗室設備と比べても遜色ないという。

 飯田は現在、部下である現地採用の2人の中国人技術者と共に電波暗室での業務に取り組んでいる。「電波暗室棟の稼働率は85%を超えている」と、飯田はその盛況ぶりを話す。