小が大を飲み込む

 転機は、有沢製作所が2010年11月にベルギーのBekaert社のベッセル関連事業の買収を決めたことだ。市場シェアは有沢が5%程度で、 Bekaert社が約35%という「小が大を飲み込む買収」だった。新興国などの工業用水の需要増で、海水の淡水化技術は世界でも注目の的だ。長い歴史を 持つ有沢の同事業は内需中心だったが、買収で一気に国際化した。

 「買収前の海外出張は、5年に1度程度」と話す田中は、米国とスペインにあるBekaert社の生産拠点に毎月のように足を運んでいる。プレゼン資料や製品仕様書は、英語での作成が当たり前になった。買収先の技術者との電話会議も少なくない。

 当初、Bekaert社の開発現場では、極東から来た技術者をあまり歓迎しない雰囲気もあったという。それでも、日本の技術陣が一丸となって開発した 「高水圧に強く、水漏れしにくい」成形技術には自信がある。「有沢が持つ技術の潜在能力を定量的に示すことで、Bekaert社の技術陣の目の色が変わっ てきた」と、田中は手応えを感じている。

 国内のエレクトロニクス関連メーカーが仕掛ける海外企業の大型買収案件は増加傾向にある1)。逆に、海外企業に買収される立場になってもおかしくない。田中と同様に開発現場の国際化にいきなり直面する技術者は、今後さらに増えるだろう。

参考文献
1)進藤ほか,「電機産業の未来」,『日経エレクトロニクス』,2011年4月4日号,no.1053,pp.37─68.

 キッカケは、M&Aの他にもある。新興国市場の拡大などを背景にグローバル化を目指すエレクトロニクス大手は、こぞって海外での現地人材の採用比率を高めている(図7)。

図7 求人数は戻りつつあったが…
パナソニックグループの2012年度の採用計画は、国内新卒採用の比率が全体の約1/4に減る(a)。パナソニック電工と三洋電機を含む人数。この1年ほどエレクトロニクス関連業界の求人数は徐々に戻りつつあったが、今回の震災の影響で見通しは不透明になった(b)。(b)はリクルートエージェントによる求人数の推移。