東アジア企業の台頭、事業構造改革、企業の合併・買収――。エレクトロニクス業界の構造変化は、技術者に転機をもたらす。変化の時代をしたたかに生きる技術者の姿を紹介しよう。=文中敬称略
富士フイルムに限らず、エレクトロニクス業界を含む多くの日本メーカーは、事業や開発体制の見直しの真っただ中にある。経済産業省が2010年2月に製 造業を対象に実施した調査では、過去の事業戦略を「大きく見直す」「一部を見直す」ために新たな戦略を策定中と回答した企業は約6割に上った(図5)。
富士フイルムの中村の例は、企業による事業の選択と集中が技術者に与えた転機の一つだ。
中村のように変化を前向きに捉える技術者もいるが、企業側の動向に不安を感じる技術者は多い。本誌が2011年3月に技術者を対象に実施したアンケート では、技術者が転職活動を始めたキッカケとして挙げた理由の4割弱が「会社の将来への不安」、約3割が「希望する仕事に就けない」ことだった 。
仮に運良く希望する開発現場にいられたとしても、開発現場の常識を見直すことは避けられないかもしれない。
新潟県上越市に拠点を構え、電子材料や化学繊維材料などを手掛ける老舗メーカーの有沢製作所。同社で、海水の淡水化などに使う繊維強化プラスチック (FRP)製の管(ベッセル)を開発する田中浩(51、複合材料技術部 複合材料グループ グループリーダー)の仕事は、この数カ月で大きく変わった(図6)。