今や、エレクトロニクス技術が使われていない社会環境を探す方が難しい。技術者が活躍できる分野は、格段に増えた。新たな製品や技術の開発だけではない。新興国市場の拡大や事業構造改革、企業の合併・買収(M&A)などが、会社の壁を越え、国境を越える挑戦を技術者に迫っている(図2)。

図2 転機がもたらす技術者の挑戦
エレクトロニクス業界を取り巻く世界的な環境変化によって、技術者による挑戦の舞台が広がる。

 例えば、事業規模や収益性で日本メーカーを引き離しにかかる韓国の大手企業。そこを新たな活躍の場として選んだ日本人技術者は何を見たか─。


 「経営トップが意思決定するスピードは、本当に速い」。3年半ほど前に国内家電大手から韓国大手メーカーに転じた40歳代のディスプレイ技術者、竹田和郎(仮名)は、転職直後の驚きを振り返る。意思決定のスピードについては以前から耳にしていた。だが、想像をはるかに上回った。自らの開発業務に必要な費用を確保する際の上司との交渉は、スピード感の違いを強く意識する場面の一つだ。

 初めに予算ありきではない。もちろん、費用の使い方には上司のチェックが入る。それでも、開発理由をきちんと説明し、説得できれば、その場で上司の決済が下りる。古巣の上司の「予算に計上していないから」というしゃくし定規な返事とは雲泥の差だと感じる。

 技術者としての満足度は高い。何より、自分の采配で開発している達成感がある。一緒に開発する韓国人技術者からも刺激を受ける。「すごく真面目で熱心。よく勉強しているし、技術開発の使命感が強い」。

 戸惑う面もある。徹底したトップダウン経営のため、上司が代わると前任者と交わした口約束は簡単にほごになる。研究開発に長期的な視点が少ないとも思う。「研究開発の方向性をいかに打ち出すか。韓国メーカーには迷いが生じている」と、竹田は冷静に分析してみせる。