第2回に示した図2のAで表した時点(満了特許技術のみで製造できるようになる時点。以下、A時点)が、技術がコモディティー化する兆候が現れる時期だとすると、それはおおむね[2]の量産的開発段階で取得した量産技術保護特許が満了し始める頃からと考えられる。つまり、開発ステージが[1]の基本的開発段階から[2]の量産的開発段階に移行してから、20年後である。このように定義すれば、技術がコモディティー化する兆候が現れるA時点を予測できることになる。

図2●技術のコモディティー化の概念図
必須特許が満了するまで(必須特許存在期間)は、競合他社は市場の要求にあった性能の製品は造れない。しかしその後は、満了特許で造れる製品の性能がどんどん高くなり、市場要求に合った製品が造れるようになる。
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 ここで、図3のDRAMの特許出願分布データからA時点を考察してみよう*4。DRAMの特許が最初に出願された1982年から最初のピークを迎える1990年までは、出願件数が継続的に増加している。

図3●DRAMの特許出願分布の変化
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*4 検索対象文献を「特許公開公報」、検索項目を「発明の名称」、「要約」または「クレーム」とし、キーワードを「DRAM」としてデータベース検索して作成した母集団をマッピングした結果である。

 これは、必須特許〔[1]基本的機能保護特許+[2]量産技術保護特許〕を取得すべく各社が特許出願をしたためである。1991年から出願件数がいったん落ち込んでいるのは、必須特許について出願し尽くされたと各社が判断したからと推測される。

 実際には、出願から公開までの時間(1年半)および判断にかかる時間などを考慮すれば、各社が必須特許は出願し尽くされたと判断するよりも前にA時点を算出する基準時(A時点-20年)はあるとみてよい。そうだとすると、実際には、最初の出願と第1次ピークに至る中間時点の1986年ごろから20年後である2006年ごろにA時点が存在し、コモディティー化の兆候が現れているといえる*5

*5 DRAMのような、比較的単純な構造を有する製品については、市場の要求するスペックがさほど高くない(0と1を電子的に記憶保持できればよい)ため、A時点で既に技術のコモディティー化が生じていたと解釈することも可能。