富士通は連戦連勝を続けた。

 1994年8月には東京地方裁判所が富士通勝訴の判決を下し,3年後の1997年9月には東京高等裁判所が米Texas Instruments Inc.(TI社)の控訴を棄却する(表1)。同11月には,特許庁が富士通の無効審判請求を認め,キルビー275特許を無効とする審決を下した。

表1 キルビー特許訴訟の最高裁判決前後(表:日経エレクトロニクス)
表1 キルビー特許訴訟の最高裁判決前後(表:日経エレクトロニクス)<br>※1 2001年3月28日にTI社の請求は棄却された。同社は最高裁の上告するかまえ。
※1 2001年3月28日にTI社の請求は棄却された。同社は最高裁の上告するかまえ。
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 一連の判決のなかでも特に光っていたのは,東京高裁が下したものだった。同裁判所は,特許庁が特許無効を判断する前の段階で,「キルビー275特許が無効である可能性が高い」とする判断を打ち出した。特許をつかさどる特許庁ではなく,裁判所が特許を評価し,特許の有効性について言及する。これは,当時の国内特許制度ではほとんど前例のない判断だったのである。

 この判決を受けて,TI社は1997年10月に最高裁判所に上告した。

 当時の新聞は,東京高裁の解釈について『承服できない。もともと分割出願は当局の指導によって出したものだ』(1997年9月11日付日経産業新聞から)と語る日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)幹部のコメントを紹介している。このコメントは,「特許無効の可能性が高い」とした東京高裁の判決に対する反論だ。