「空飛ぶ配線」は是か非か
素子間の接続方法に関しては,キルビー特許以外にももう一つ,ICの基本特許として名高い特許が存在する。米Fairchild Semiconductor社のRobert N. Noyce氏が発明した,プレーナ型トランジスタを使ったICの特許,いわゆる「プレーナ特許」である(図2(b))。キルビー特許とほぼ時を同じくして世に登場したこの発明は,キルビー特許訴訟開始時にはすでに期限切れとなっていた。
現在は,TI社のJack S. Kilby氏と,Noyce氏の双方をICの発明者とする見方が一般的になっている。ただし,Noyce氏が発明した構造の方が「製造技術的には現在のICの姿に近い」という意見は根強い。米国では1960年代にFairchild社とTI社が二つのIC基本特許に関して,「どちらがICの発明に当たるか」をめぐる訴訟合戦を繰り広げた。結果,米国の司法はNoyce氏をICの発明者とする最終判決を下している。
Noyce氏は,1981年のインタビューでKilby氏の発明に関して,本誌にこうコメントしている。
『キルビーは,集積回路という概念を強力に推し進めた。そのことで彼の貢献はとても大きい。しかし彼が考えた製造法は実用的ではなかった。結局ICはプレーナ・プロセスで作られており,今でも本質的には変わっていない』