セミコン・ジャパンの会期中に同時に開催している国際技術シンポジウム「SEMIテクノロジーシンポジウム(STS)」。プロセス、生産技術、実装/パッケージング、テスト、製造装置、材料など半導体デバイスおよびMEMS(Micro Electro Mechanical System)にかかわるテーマを網羅する数多くの講演が行われる。2012年に31回目を迎えるSTSの見どころなどについて、プログラム委員長を務める奈良安雄氏に聞いた。

奈良 安雄 氏
奈良 安雄 氏
STS2012 プログラム委員長 富士通セミコンダクター デバイス開発統括部 先端技術開発部 部長 工学博士

 STSの講演で講師を務めるのは、それぞれの分野の第一線で活躍する方々ばかり。しかも、業界で焦点となっているホットな話題を採り上げる講演が多い。今回は、13件のセッションが用意されており、合計で65件の講演が開かれる予定だ。半導体の技術だけでなく関連する市場やビジネスに関するテーマもプログラムに盛り込んでいるので、半導体を中心にした業界全体の最新状況を効率よく一望できるというのも、このシンポジウムの大きな特長と言えるだろう。

 このイベントは、来場者から高い評価を受けており、毎年大勢が参加する。昨年はその前年を37%も上回る1,834人もの参加者が集まった。今年は、さらに前年を上回る2,000人が参加すると見込んでいる。

新しい技術を積極的に採り上げる 

 半導体の技術のトレンドは、ここにきて大きな変曲点を迎えている。つまり、従来技術の延長だけでは対応できない課題に多くの技術者が直面している。こうした課題を解決するために革新的な技術が次々と出てきている。例えば、米Intel社が先陣を切る形で、新構造の3次元トランジスタの実用化が始まった。大手ファウンドリを中心に同社に追随する動きが今後出てくるはずだ。小型薄型化の要求に応えるために実装においても3次元化が進むだろう。この一方で、EUV(Extreme Ultraviolet)を使った露光装置の開発がなかなか進まないことなどから、ArF光源と液浸方式を組み合わせた既存の露光技術を使った微細化も大きな課題となっている。

 「省エネ」も、半導体の分野で大きな課題の一つだ。このため新材料を使った次世代パワー半導体の開発が、ここにきて加速している。LEDや有機ELを使った発光デバイスも、省エネに貢献するデバイスとして重要だ。STSでは、こうした半導体に関する新技術を積極的に採り上げる。この分野にかかわる人々のさらなる飛躍のキッカケが生まれる可能性があるからだ。

 最近では、自社で生産ラインをもたないファブレスや、生産の多くを社外に出すファブライトを指向する半導体メーカーが日本でも出てきた。このため、最先端の半導体技術に関する情報のニーズは減っているという声もある。だが、それは違うのではないか。製造プロセスにまで踏み込んだ知識があれば、半導体デバイスの可能性を最大限に引き出すうえで有利だ。半導体デバイスに関する見識を深めたいという人にはSTSは有意義な場になるだろう。

特別セッションはパワー半導体

 会場となる幕張メッセ国際会議場では、3日間で11件のセッションが開かれる。今回の目玉の一つは、12月6日(木)に開催される「特別セッション パワー半導体」である。産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクスセンターの奥村元氏と私がセッションチェアを務めるこのセッションでは、損失が少ないことから省エネルギーに貢献する次世代パワー半導体として最近注目されているSiC(シリコン・カーバイド)を使ったパワー半導体に関連する技術を採り上げる。このセッションでは、世界の研究開発動向、SiCパワー半導体に関する研究開発の現状、原材料となるSiCウエハやデバイスの技術、SiCパワー半導体の応用動向などについて言及する予定だ。

 パワー半導体の技術については、セミコン・ジャパンの展示会場内に設けられた「次世代技術パビリオン」にある「パワー半導体エリア」でも紹介している。ここではSiCやGaN(ガリウム・ナイトライド)を使った次世代パワー半導体に関する製造プロセス、材料、計測検査技術などが登場する。特別セッションの参加者には、この展示も役に立つはずだ。

 このほかのセッションも、これまで以上に内容を充実させている。例えば、12月5日に開かれる「先端メモリ」である。「高密度化に向けたストレージ技術の開発状況」というサブタイトルを掲げたこのセッションでは、MRAM、ReRAMなどの次世代不揮発性メモリの技術だけでなく、これらのメモリとハードディスク装置を組み合わせた新型のストレージ・デバイスなども採り上げる。

 「国内編」と「海外編」の二つに分けて実施する「マイクロシステム/MEMS」のセッションでは、最新のMEMSデバイスの技術を網羅するだけでなく、身の回りの振動や光、熱、電磁波などをエネルギーとして利用できるようにする技術。いわゆる「エネルギー・ハーベスティング」にMEMSを応用する技術についても言及する。

 微細化の最先端の技術をテーマにした「先端デバイス」、有機EL照明をテーマにした「OLED」、新たな照明用光源として普及が本格化している高輝度LEDをテーマにした「LED」、半導体のテスト技術を扱う「テスト」、微細化を進める上での焦点となっている露光技術をテーマにした「リソグラフィ・マスク」、最新の実装技術をテーマにした「パッケージング」など、このほかのセッションも充実した内容となっている。

表1 SEMIテクロジーシンポジウム(STS)2012のセッション
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注目技術をテーマにした無料セミナー

 STSのもう一つの大きな目玉と言えるのがセミコン・ジャパンの展示会場内で開く無料セミナー「STSサテライト」である。STSサテライトは、STSの30周年記念イベントとして昨年はじめて企画したイベントである。専門家だけでなく、幅広い分野の来場者に、いま注目すべき技術の最新動向を知ってもらうために企画したものだ。前回、好評だったことから今回も実施することにした。今回のテーマは二つ。一つは、「プリンテッドエレクトロニクス」。印刷技術を使って回路を構築するプリンテッドエレクトロニクスの技術は、エレクトロニクス機器の小型薄型化や生産効率向上に貢献する技術として、今後の発展が期待されている技術である。

 もう一つのテーマは、DFM(Desi gnFor Manufacturing)。DFMは、LSIの製造プロセスで発生する問題を設計段階で考慮することによって解決する技術である。半導体では微細化の進展とともに、製造工程におけるバラつきが顕在化している。このバラつきは特性の変動などを招く。こうした問題に対処するための手法として近年開発が進んでいる。特に最近では、既存のArFレーザーを使った露光技術の延命を図るための技術の一つとして重要性が高まっており、半導体プロセスに関わる技術者の間でもっとも注目を集めている技術の一つである。

表2 「STSサテライト」のセッション
表2 「STSサテライト」のセッション

 回数を重ねるごとに着実に内容が充実しているSTS。セミコン・ジャパンと併せて是非多くの方々に参加していただきたい。