磁気で宙に浮かせて羽根車を回す、テルモの「DuraHeart」

 サンメディカル技術研究所の「EVAHEART」と同じタイミングで国内での薬事承認・販売に至ったもう一つの埋め込み型補助人工心臓が、テルモの「DuraHeart」である。同社は開発の過程で、国内では部材の調達が難しいなどの理由から、2000年に拠点を米国に移しており、サンメディカル技術研究所とは異なる経緯をたどった。いわば「日本生まれの米国育ち」(テルモ 臨床開発部 臨床開発課 補助人工心臓プロジェクト フィールドクリニカルスペシャリストの本間紗帆氏)の製品である。なお、今回の国内での販売に先立ち、既に欧州では2007年から販売を始めている。

 こうした経緯のため、テルモのDuraHeartの構成部材は「大部分が海外製」(同社の本間氏)という。一方、サンメディカル技術研究所のEVAHEARTは、「海外製の部材は全体の10%程度」(同社の牛山氏)としており、対照的な姿が浮かび上がる。

センサで回転位置を制御

 テルモのDuraHeartは、ポンプ内部の羽根車の回転によって血液を送り出す連続流型の血液ポンプを利用する。その点では、サンメディカル技術研究所のEVAHEARTと同じだ。しかし、羽根車を回転させる仕組みが大きく異なる。具体的には、「磁気浮上型遠心ポンプ」と呼ぶ技術を利用している(図A-1)。羽根車を磁気で宙に浮かせて回転させる方式で、京都大学 工学部 名誉教授の赤松映明氏とNTNが共同で考案した技術である。両者とともに、テルモは1994年から開発を進めてきた。

図A-1 「磁気浮上型遠心ポンプ」を採用した補助人工心臓
テルモの補助人工心臓「DuraHeart」(a)。血液を押し出す羽根車を、磁気で浮かせて回転させる方式を採用している(b、c)。(図:(b)と(c)はテルモの資料を基に本誌が作成)

 磁気浮上型遠心ポンプの最大の特徴は、羽根車を支える軸そのものが不要になり、血栓や血液損傷の原因となりやすい機械的な軸受けを排除できることだ。これに対してサンメディカル技術研究所のクールシールシステムは、軸が存在するという前提の下で、血栓や血液損傷を生じさせないための機構である。実現手段がそれぞれ異なる。

 テルモの血液ポンプは大きく、電磁石、羽根車、モータの3層で構成される(図A-1(b))。モータ部にも磁石が搭載されており、電源が入っていないときには、羽根車はモータにくっついている。電源を入れると電磁石が機能して羽根車は宙に浮いた状態になり、磁石付きモータの回転に同期して羽根車も回りだす仕組みである(図A-1(c))。

 宙に浮いている羽根車が、適切な位置で回転し続けるようにするための仕組みも導入している。電磁石部に複数の位置センサを配置しており、同センサによって羽根車の回転位置を制御する。

コントローラの重さが異なる

 テルモとサンメディカル技術研究所の補助人工心臓には、一部の仕様に違いがある。前述の通り、血栓や血液損傷の原因を排除するために採用した手段がそれぞれ異なるからだ。

 例えば、コントローラである。テルモのコントローラの重さは約2kgであるのに対して、サンメディカル技術研究所のコントローラは約4.3kgと約2倍。この違いの大きな要因は、サンメディカル技術研究所の方式がクールシールシステムによって水を循環させており、コントローラ内に水を格納するタンクが必要になることにある。

 その他の違いとしては、サンメディカル技術研究所の血液ポンプの羽根車はモータと軸で直結して回転しているため、テルモの血液ポンプのような位置センサは使っていない。「我々の方式は血液ポンプ内に電子部品が一切存在しないため、長期間の耐久性に有利に働く」(同社)と語る。