苦心した部材調達

 健二氏のアイデアは、当時としては非常に画期的なものだった。「彼(健二氏)の上司である医学界の重鎮からは、『本当に実用化できたらノーベル賞ものですよ』と言われた」(サンメディカル技術研究所の山崎俊一氏)というほどで、アイデアはすぐに特許出願された。さらに、会社設立の初期から東京女子医科大学や早稲田大学と提携するなど、学界からの期待は膨らんでいった。

 一方で、大きな壁にも早々に直面した。部材調達の難しさである。ちょうど1990年代には米国でPL法(製造物責任法)の賠償問題が大きく叫ばれており、国内でもPL法の法制化の動きが進み始めていた。PL法に関わるリスクや企業ブランドへの影響などを懸念する部材メーカーから快い返事をもらえることは、ほとんどなかったという。

 「医療機器は、さまざまな部材の組み合わせで完成するもの。多くの企業の協力があって、初めて成立する。1社では、いかんともしにくい。電池のように国内企業が強みを持つ部品であってもなかなか協力が得られず悔しい思いをした」─。サンメディカル技術研究所 専務取締役の牛山博之氏は振り返る。

EVAHEARTの血液ポンプの内部構造
モータと軸で直結した羽根車が回転して血液を送り出す方式を採用する。(図:サンメディカル技術研究所の資料を基に本誌が作成)

 例えば、電池はコントローラに搭載する部品である。コントローラは血液ポンプとは異なり、体外で使う。それをいくら説明しても、人命に関わる機器の一部である以上、「社の方針として供給できない」という一本やりの回答だった。これに対して同社は、「我々が製品として責任を持って設計し、2重、3重の電源のバックアップの仕組みも導入します…」と丹念に説明を繰り返し、少しずつ理解を得ていくしかなかったという。

 なお、実際に販売が始まったEVAHEARTでは、4~5時間駆動できる電池を二つ備えて片方ずつ消費する仕組みにし、同時にもう一つ別の非常用電池を備えるといったバックアップの工夫を施した。さらに、ACアダプタで家庭のコンセントから、カー・アダプタで自動車からも電源を得られるようにしている。