「なんとか部品を供給してもらえませんか…」
「本当に会社があるんですか? 疑わしい」─。

 あるベンチャー企業は、設立してからしばらくの間、部材メーカーに頭を下げて回っては懐疑の目を向けられ続けていた。1991年に長野県諏訪市で産声を上げた、サンメディカル技術研究所である。

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長野県諏訪市にあるサンメディカル技術研究所の本社外観。

 2011年4月、2種類の補助人工心臓の国内販売が開始された。国内では初となる、埋め込み型の補助人工心臓である。いずれも2010年12月に厚生労働省の製造販売承認を受け、販売開始に至った機器だ。一つは、テルモが開発した「DuraHeart(デュラハート)」。そしてもう一つが、サンメディカル技術研究所が開発した「EVAHEART(エヴァハート)」である。同社は設立から約20年かけて、補助人工心臓の販売にこぎ着けたのだ。

 サンメディカル技術研究所の成果には、特筆すべき点が大きく二つある。一つは、医療機器の中で最も開発のハードルが高いとされる埋め込み型の治療機器の領域で、これまで医療機器開発の実績が全くないベンチャー企業が実用化に成功したこと。医療機器にはさまざまな種類があるが、同領域は世界的に日本企業の競争力が極めて低いことで知られる。それだけに、同社が成し得たことは驚きに値する。

 特筆すべきもう一つの点は、サンメディカル技術研究所が一貫して国内で開発・治験を進め、世界に先駆けて国内で実用化した(薬事承認を得た)ことである。埋め込み型の補助人工心臓のような先進医療機器においては、海外に比べて国内での実用化が大きく遅れる、いわゆる「デバイスラグ」の問題が指摘されて久しい。先進医療機器において国内で先行して治験を実施し、世界に先駆けて実用化するというケースは、極めてまれである。この点で同社の事例は、今後の国内企業の医療機器開発や、国内の医療機器産業の在り方に一石を投じたと言える。

サンメディカル技術研究所が開発した補助人工心臓「EVAHEART」。体内に埋め込む血液ポンプ部と、体外のコントローラ部から成る。

 サンメディカル技術研究所 代表取締役社長の山崎俊一氏は、次のように語る。「医療機器分野は今後の日本の成長産業の一つだ。こんな小さなベンチャー企業が開発し、販売に至ることができたのだから、『自分たちにもできる』と考える企業にどんどん出てきて盛り上げてもらいたい」。

 ベンチャー企業がいかに補助人工心臓の販売までこぎ着けたのか。会社設立から販売に至るまでの経緯社長インタビューなどを順に示していく。