複数の医師・病院で情報を共有

以下では、i-Strokeの主な機能を利用シーンのおおまかな流れに沿って説明する。

  • ●ストロークコール:脳卒中の患者が運び込まれた病院から、あらかじめ登録された医師のスマートフォンに一斉連絡ができる機能である。例えば東京慈恵会医科大学では、20人の医師が登録されている。患者が来たことを20人の医師全員が認識できるのである。
  • ●画像ビューワ:病院内の画像診断装置で撮影した検査画像を共有できる機能である。昔は携帯電話機のカメラ機能で画像を撮影して送信していた時代もあった が、その場合は専門医が本当に必要とするスライス(断層像)がないケースもあった。同機能では、スマートフォン上で所望のスライスに簡単に切り替えて見る ことができる。
  • ●3D画像作成:脳血管内の画像を3次元的に見やすく表示する機能である。放射線技師が作成した方向の画像だけでなく、専門医が自由に好きな方向に画像を回転させることができる。
  • ●タイムライン:検査画像や専門医のコメントなどを時系列で見られる機能である。院外にいても、患者が今何をしているのかを把握できる。
  • ●ツイート(Tweet):タイムライン上に、登録された医師がコメントする機能である。例えば、「この画像はこう考えるけど、どうですか?」といった意見をすべての登録医師と共有できる。
  • ●治療補助:t-PA投与量の算出や禁忌項目の確認などができる機能である。
  • ●ストリーミング:治療(手術)の様子をリアルタイムで見ることができる機能である。どこにいても、実際の手術室の様子を15秒遅れで見られる。私は先日、南アフリカに訪問していたが、そこでも15秒遅れで見ることができた。
  • ●i-Hospital:i-Strokeをそれぞれの病院で導入していることが条件だが、相互の病院間で画像を共有できる機能である。この機能を利用す れば、複数の病院を大きな一つのチームとして活用できる。我々は今後、中小規模の病院や診療所にもi-Strokeを導入してもらい、大きな医療ネット ワークを構築するプロジェクトを進めていきたい。

今後はゲーム機でも

 最後に、i-Strokeの今後の展開について述べたい。同システムが脳卒中の治療の補助において効果があることは、既に臨床的に実証されている。とこ ろが最近では、皮膚科や循環器科、救急科、外科、内科などでも適用したいという声が多く挙がっている。我々が想定していた範囲を大きく超えて、適用範囲が 広がろうとしている。「Stroke(脳卒中)」という名前だけが残ってしまった格好だ。

 一方、臨床の領域だけではなく、教育分野などに利用しようとする動きも活発になっている。例えば、手術の映像をライブラリ化して医療関係者への教育に使ったり、タイムラインを参照してどのような検査・処置を施したのかを学べたりするというわけだ。

 システムとしては、携帯電話機の電波が入らない地域が一部にあることが問題だと認識している。「いつでもどこでも」というコンセプトに反するからだ。そこで、電波が入らない地域における運用について現在、NTTドコモと検討している。

 端末については現在、スマートフォンを利用しているが、それだけにはこだわっていない。インターネットに接続する端末なら何でもよい。例えば、ゲーム機でi-Strokeを使える環境を作ろうという動きも出てきている。

本記事は、2011年11月22日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「デジタルヘルスの未来2012」において、高尾氏が講演した内容を基に、加筆・編集したものである。