関口 史郎氏
関口 史郎氏
かながわ福祉サービス振興会
介護ロボット推進室 室長
(写真:関 行宏)

超高齢化社会の到来と同時に、介護に対する技術活用の在り方も問われ始めている。“介護ロボット”は、その一つの方策ではあるが、現段階では普及 の兆しが見えていない。介護の現場にロボットを導入するに当たっては、どのような課題があり、いかにして普及を進めていくべきなのか。神奈川県の委託事業 として、かながわ福祉サービス振興会が進めている「介護ロボット普及モデル事業」から、そのヒントを探る。(小谷 卓也=日経エレクトロニクス)

 神奈川県では今、ロボットなどの先端技術を介護現場に普及させるための実証事業「介護ロボット普及モデル事業」を進めている本誌注)。私が在籍する、かながわ福祉サービス振興会が、神奈川県の委託事業として実施しているものである。

本誌注) 介護ロボットという定義は曖昧だが、本稿では、同事業に導入している技術を広い意味で介護ロボットと表現する。

 本稿では主に、(1)介護ロボット普及モデル事業の概要、(2)同事業を通して分かったこと、(3)今後の介護ロボット普及に向けた課題、について示していく。

進む介護人材の不足

 まず、(1)の介護ロボット普及モデル事業の概要について説明する。

 我々が介護ロボットに着目する背景には、国内の介護分野を取り巻く状況の変化がある。それは、超高齢化社会の到来と、介護人材の不足である。

 日本は、世界に先んじて高齢化が進む。国内の高齢化率(人口の中で65歳以上が占める割合)は既に25%に近付いていて、2050年には40%をうかがう状況になる。

 それと同時に、必要な介護職員数も増加する。現在、国内の介護職員数は約120万人とされる。既に現時点で、介護の現場では人手不足に悩まされている が、2025年には現在のほぼ倍となる210~250万人の職員が必要になるという試算がある。こうした状況の中で、介護ロボットの役割が重要になってくるのは間違いないだろう。

神奈川から世界へ

 介護ロボット普及モデル事業の目的は、大きく二つある(図1)。第1は、介護現場が抱える問題の解決である。

図1 目的は二つ
図1 目的は二つ
介護ロボット普及モデル事業の目的は、(1)介護分野が抱えるさまざまな問題の解決、(2)ロボット関連の新産業の育成、の二つである。(図:かながわ福祉サービス振興会の資料を基に本誌が作成)

 介護現場では、「介護される側」「介護する側」の双方が問題を抱えている。介護ロボットを普及させることで、介護される側に対しては自立・身体動作の支援、介護する側に対しては業務負担の低減や人手不足の解消などを狙う。

 第2の目的は、新たな産業の育成である。最近では、京浜工業地帯の空洞化が進んでいる。かつてJR南武線の沿線に数多く存在した工場の減少も目立つ。神奈川県としては、県内に新たな産業を育成したいという強い思いがある。

 そこで、県内を中心に介護ロボットの活用を推進することで、先進モデルの構築を目指す考えである。構築したモデルは、他の地域や海外にも展開していける 可能性がある。実際、我々の事業に対しては、国内外の自治体や企業などからの視察の要望が多く舞い込んでいる。もちろん、県内の雇用機会の増大にもつなが るとみている。

 以上が事業の二つの目的だが、個人的にはもう一つの思いがある。介護に対するイメージを変えたいというものだ。介護の現場というと、「きつい」「汚い」 など、決して良いイメージがあるものではない。ロボットなどの先端技術を導入することで、介護現場に良い意味で光を当てたいと考えている。