ハードウエアだけではダメ

(2)の実際の事業を通して分かったことについて紹介する。

 まず感じたことは、単に介護ロボットを施設に導入するだけではダメだということである。施設のスタッフにロボットを渡しても、なかなかうまく使ってもらえるものではない。ロボットを誰に対してどのように使うのかといった、運用面でのサポートが重要だと痛感した。

 そのため、介護ロボットを普及させるためには、ハードウエア(ロボット)の提供だけではなく、ハードウエアをサポートする周辺システムの強化が必要だと 考える。具体的には、ロボットの運用に関する手引書のようなものを用意したり、ロボットを使いこなせる人材を育成する仕組みを構築したりする必要がある。 2011年度の事業において、前述のロボット導入のガイドライン作成、人材育成に向けた教育・研修といった取り組みを追加したのは、このような背景があ る。

「年間100万円以下」

 一方、我々は介護ロボットの試験導入と並行して、介護施設へのアンケートや訪問などによるニーズ調査も実施した。この調査結果の幾つかを、簡単に紹介する。

 まず、介護ロボットに対して施設がどれだけの予算を費やせるかを聞いた。過半数以上の施設の回答は、「年間100万円以下」という結果だった。「スタッフ一人分の人件費程度なら費やせる」という回答も散見された。

 次に、介護ロボットへの期待が大きい業務は何かを聞いた。その結果、「移動や移乗の介助業務」に対して期待が寄せられていることが分かった。一方で、負 担感が強い業務にもかかわらず、ロボットへの期待が小さいものとして、「排泄介助」を指摘する声が多くあった。これは、排泄介助は単に利用者の排泄の介助 をするだけではなく、排泄の状況から健康状態を把握することも同時に行う業務であることが理由と考えられる。

情報が現場に伝わっていない

 このニーズ調査を実施する中で、そもそも介護ロボットに関する情報を、介護の現場がほとんど持ち合わせていないという現実も見えてきた。

 もちろん、試験導入のために用意した前述の複数の介護ロボットの存在も、あまり知られていなかった。そのため、装置価格の感覚も分からなければ、機能面のメリット・デメリットや費用対効果なども全く想像できないというのが、実際の介護現場の実態だった。

 こうしたことから、介護ロボットに関する積極的な情報発信は非常に重要だと考えている(図3)。介護ロボットとは何か、介護ロボットが何をしてくれるのか、といった情報が介護する人や介護される人にも伝わるように、情報発信の施策を講じていく必要がある。

図3 これまでの取り組みで分かったこと
図3 これまでの取り組みで分かったこと
これまでの介護ロボット普及モデル事業を通して、介護施設とロボット・メーカーの間に大きなギャップがあることが分かった。これを埋める取り組みを進めることが必要である。(図:かながわ福祉サービス振興会の資料を基に本誌が作成)