普及しないのはなぜなのか

 最後に、(3)の今後の介護ロボット普及に向けた課題について述べたい。

 まず、介護ロボットがなかなか普及しないのはなぜなのか。私は大きく四つの側面があると考えている。すなわち、情報面、人材面、経済面、業務面、であ る。このうち情報面と人材面は、前述の通り、我々の事業からも見えてきた課題である。介護ロボットがそもそも何をしてくれるものなのかという情報が現場に 伝わっておらず、ロボットを現場に提供したとしても、それを扱うノウハウや人材が不足しているという現状がある。

 仮に介護ロボットを導入しようとしても、経済面の課題が出てくる。現時点では、ロボット導入に対する補助金や保険加算が存在しない。施設に高額な費用負担が強いられる。

 そして業務面の課題もある。製造業の工場などに導入する産業用ロボットに期待されているのは通常、標準化された業務を、ムリ・ムダ・ムラの低減を追求し ながら実行することである。一方で介護の場合は、業務の流れが画一的ではない上、必ずしも業務効率を追求することが歓迎されない。このような状況の介護現 場には、ロボットがすんなりとは入り込みにくいという実情がある。

まずは間接的な業務支援の領域から

 これらの課題を解決するためには、どうすれば良いのか。まず、ロボットを製造販売する企業は、単にハードウエアを提供するだけではなく、ロボットを受け入れやすい環境も合わせて提供することが求められるだろう。

 しかし、介護ロボット市場は企業1社だけで開拓できる市場ではない。産官学が連携すると同時に、それぞれの立場でさまざまな施策に取り組む必要がある。 産官学のスムーズな連携に向けて、それらを仲介・調整する役割を担う組織も不可欠だと考える(図4)。補助金によってロボットを導入する施設の負担を軽減 させるといった国や自治体による施策も重要になってくる。

図4 仲介・調整役の存在が必要
図4 仲介・調整役の存在が必要
今後の介護ロボットの普及促進に向けては、産官学の連携に加え、それぞれの立場を仲介・調整する役割を担う組織も必要である。(図:かながわ福祉サービス振興会の資料を基に本誌が作成)

 介護施設のスタッフの価値観に寄り添い、現場のニーズに即した領域から普及を促進していくことも必要だ。多くのスタッフは、「業務負担の軽減はありがたい」が、「施設の利用者とはより多く触れ合いたい」という気持ちを持っている。まずは、利用者に直に接するロボットではなく、間接的な業務を支援するロボットから市場開拓を進めることが、普及の近道なのかもしれない。

本記事は、2011年11月22日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「デジタルヘルスの未来2012」において、関口氏が講演した内容を基に、加筆・編集したものである。