事業継続のために収益性が必要

 次に、(2)の今後の医療機器開発環境に対する課題提起をしたい。

 医療機器事業を手掛けるには、何よりも事業の継続性が求められる。いったん世の中に出した製品の供給を、企業の都合で簡単に止められないと理解している。その製品を使っている患者や医師がいるからだ。例えば、我々の血糖計のうち1991年に発売した機種は、いまだに生産を続けている。市場から「要らな い」と言われるまでは、製造し続けるつもりである。

 ただし、事業を継続していくためには、事業に収益性がなければならない。医療機器の収益性というものは、開発や臨床試験に掛かるコストをいかに抑えて、 かつ保険収載によるコスト回収までの道筋を見積もることで決まる。ところが、この一連の道筋はメーカー単独では描けない。医療機関や各種学会、厚生労働 省などとの連携が必須になってくる。

保険収載=ある医療機器や医療サービスに対して保険が適用されること。診療報酬点数(保険点数)という形で、全国一律に決まる。

 こうした連携の実現や事業の収益性を確保するための環境の整備は、個別の企業による取り組みだけでは難しいのが現実である。そのため、社会全体のシステム(インフラ)として、以下のような取り組みが必須になると考えている。

  • 特定分野に特化した医療クラスターの実現
  • クラスター参加組織間の有機的連携と相互の機能分担の理解
  • 投資環境などの整備
  • 世界の動きとの連携、世界に開かれた医療と日本の強みの形成
  • 医療現場に早期導入可能な仕組みの構築

 こうした取り組みを加速するには、新たな能力を備える人材の育成も欠かせない。例えば、医療価値と実現技術の両方を判断できる人材、複数の組織間を連携させる「コーディネータ」の役割を担う人材、などである。

日本モデルの構築を

 これらを踏まえて、医療機器開発の分野における「日本モデル」の構築を社会全体として推進すべきだという提案を最後にしたい。国内に存在する多くの優れた技術を医療の現場に導入し、現場に定着させて価値を生み出すようにすることが狙いである。

 我々が考える日本モデルとは、企業や医療機関、各種学会、厚生労働省(薬事承認/保険収載)などを連携させて、パッケージ化することである(図5)。すなわち、産官学医の連携である。そして、このパッケージ化した形で海外にも展開していく必要がある。

図5 産官学医の連携が必要
図5 産官学医の連携が必要
今後の医療機器の開発において、あるべきプロジェクトの姿を示した。(図:パナソニック ヘルスケアの資料を基に本誌が作成)

 これまでも、企業と医療機関など限られた範囲でのプロジェクトは多く存在した。しかし、保険収載といった範囲まで含めて、事業の収益性まで見通せる幅広いプロジェクトでなければ今後、国内の医療機器分野を大きな産業に育てていくことは難しいと感じている。

本記事は、2011年11月22日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「デジタルヘルスの未来2012」において、岡崎氏が講演した内容を基に、加筆・編集したものである。