高齢者に焦点

 日本は世界の中でも最初に超高齢化社会を迎える。そして、日本の後を追って他の国でも高齢化の課題に直面する。そこに、新規事業のチャンスはある。

 米国でも欧州でも韓国でも、どの国で話をしても高齢化の課題はみな共有している。ただし、国によって状況は微妙に異なるため、どのようにパズルを組み合わせて課題の解決を図るのか、それぞれ頭を悩ませている段階といえる。

 例えば欧米の高齢者の場合は、キャッシュ(貯蓄)を使い切って亡くなるケースが多いとされるが、日本では亡くなる前が裕福なライフスタイルが一般的だろ う。日本では、そのような高齢者の貯蓄をいかに世の中に回していける事業を構築するのかが、一つの方向性だと考えている。

パラダイム・シフトが必要

 日本における高齢者を対象にした新規事業の構築においては、今までの高齢者、あるいは高齢者の医療に対するイメージをいったん捨てて、全く異なる視点で 捉え直す必要がある。例えば、これまで100円だったものを95円にするとか、1時間かかっていたものを55分にするといったものでなく、パラダイム・シ フトを起こしていかなければならない。

 パラダイム・シフトは、今現在の高齢者を取り巻く状況や課題を認識し、それを解決することで生まれると考えている。認識すべき現状や課題は、大きく五つある(図2)。

図2 日本におけるビジネスチャンス
図2 日本におけるビジネスチャンス
課題の解決によって、従来の延長線上にはないパラダイム・シフトが生まれる可能性がある。(図:フィリップス・レスピロニクスの資料を基に本誌が作成)

 ①「日本は高齢化先進国と捉える」こと。高齢化を課題ではなく先進国と考え、日本に投資を呼び込む必要がある。Philips社としては、日本の事業部 門が「日本で成功すれば、アジアや欧州などに同様のビジネスモデルを輸出できる」というビジョンを描くことで、優先順位を上げて事業開拓を進めている。

 ②「効率、安全性は改善できる」こと。Philips社の本社があるオランダなどに比べて、日本の医療やヘルスケアの効率は決して高くない。だからこそ、在宅ヘルスケアの拡充や健康データの効率的な管理といった仕組みを作り出す余地が、日本にはある。

 ③「健康への意識が低い」こと。日本人の場合、喫煙率が高く、高血圧の人も多い。健康管理の強化や、かかりつけ医などの仕組みを確立する必要がある。

 ④「増加する高齢者」。①と同様にそれを前向きに捉え、新たな市場を作り出す意識が必要である。特に、高齢者の身体機能の衰えを補うようなサービスへの需要は必ずあると考えている。

 ⑤「残る気遣い、思いやりの文化」。もともと、日本が誇っていたこうした文化を踏まえた地域連携サービスなどの在り方を考えることも、重要な方向性だろう。