医学と工学で“言葉”が違う相互理解の積み重ねが必要
中野氏 規制をはじめ医療について分かる人材の育成や確保などは、企業においても非常に苦慮されていると思います。
神澤氏 今から5~6年前、京都市のいろいろな大学の医学部の先生方と工学部の先生方、そして産業界で医工連携の新しいプロジェクトを作ろうとい う話を始めました。そこで、まず困ったのは、“言葉”が通じなかったことでした。非常に困りました。それぞれの会議の運営方法まで違ったので、なかなかう まくいかなかったのを覚えています。
そこで、京都大学の医局に工学部の分室を設け、共同作業を2年間続けました。その結果、ようやく言葉が通じるようになり、その段階から実りある医工連携の成果が少しずつ出るようになりました。
この例のように、工学と医学の間のインタフェースを取れる人材が、どうしても少ないのが現状です。ただし、最近では工学と医学の垣根を取り除ける人材を 大学側でも輩出し始めているようです。今後、我々の業界でもそうした人材を雇うことで、医学とのインタフェースを取れるようになると期待しています。
中野氏 人材育成を担う大学側としては、どのように考えていますか。
岩崎氏 どっぷり浸かってみるのが、非常に大切だと思います。例えば、米国に行ったら英語で話さなければいけないように、医師と話すには相手の話していることが分かる必要があります。相互理解が欠かせません。
先ほどの規制の話にしても同じです。国は何を考えて、そのような結論になっているのかを伝えるだけではなく、相手が何を考えているのかをおもんばかることが大切です。
我々の研究室では現在、医師が大学院生として来たり、企業からの人材も加わったりして、現場の治療に対してどのようなソリューションが必要かを一緒に考えています。こうした積み重ねが、特に医療の分野では大事だと思います。
中野氏 医療機器産業は、基本的に極めて高度な情報集約産業です。どの程度の市場規模になるのか、どこにニーズがあるのか、ニーズの捉え方が分か らない、規制が分かりづらいなど、いろいろな課題があります。しかし、それらがつまびらかになったときにスタートしても出遅れは否めず、既に市場はできて いて、参入しようとしても難しい状況になっているでしょう。
そうならないためにも、今、自社の技術でどこに攻め込めるかを考えるべきだと私は思います。ここにきて、政府の施策がどんどん出てきていますが、そこだ けを見て参入すべきかどうかを判断するのではなく、自社の技術との親和性をできるだけ広い視野で見て、市場を作りにいく姿勢が必要でしょう。
本記事は、2011年5月26日と6月9日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「次世代医療機器サミット2011」におけるパネル討論の内容を基に、再構成・編集したものである。
医療機器センター
医療機器産業研究所 主任研究員
東京女子医科大学
先端生命医科学研究所 教授
早稲田大学高等研究所
准教授
ローム
研究開発本部 副本部長
厚生労働省 医療機器審査管理室 室長補佐
内閣官房
医療イノベーション推進室 企画官